Timex 2

前回、何故突然に Timex だったのか。
もう気づいている人も多いと思うけれど、今月末発売予定の Timex x Beams Boy x EG 時計の件があったから。昨年、ビームスの40周年記念企画の一環として増子さんからタイメックスと一緒に時計を考えてくれないかと言われたのがきっかけ。個人的にタイメックスというと、70年台の雑誌ポパイ、男前特集の初級編腕時計として存在を知ったのが最初。実際に手にしたのは、80年代にアイアンマンを買った時で、もうこの頃はデジタルのイメージが強かったかな。

さて、Timex と作る時計を考えた時に一番最初に思ったのは、単純に色を変えたり、ロゴを付けたりするようなデザインとは全く違う切り口でやってみたいという事でした。僕らが普段洋服を企画するのと同じように考えてみたらどうなるか。先ずは基本的なコンセプトが必要で、洋服の場合は長い間この業界で働いてきたおかげで多少なりとも自分自身のスタイルというか、単純に嗜好が決まっていて、全てはここからはじまるのですが、時計に関してはどこからスタートしていいのか分からないまま、記憶を辿って頭によぎったのは、大昔にロンドンで見て印象に残っている、あの World’s End の逆回り時計。
ぐるぐる逆行する13時時計を見ながら、時代への反体制派意識を感じて素直にカッコ良いなあと感激した覚えがある。僕個人はそんなにパンクではないのだけど、僕らの企画する洋服の大きなキィの一つはこの反体制派、反逆、逆という概念。
こんな事を考え始めた時に、Timex 側の人たちからアーカイブにあった初期のタイメックスが作った床屋さん向けのミラー反転掛け時計の写真を見せてもらう機会があった。もちろん床屋時計は知っていたけれど、タイメックスのアーカイブにある事でそのアイデアに確固たる理由ができる。この理由付けの行程は結構僕の場合には重要で、突然何か全く別のものではなく、本当に限りなく細い、ピアノ線のような繋がりであっても、あるのと無いのでは全く違う。ダイアルを完全にミラー反転するアイデアはこの辺で決まったと思う。ただ、本当の床屋時計のように機械自体、針の動く方向さえも反転させると実用性が吹っ飛んでしまう。ムーブメント自体はそのままにしておけば、たとえダイアルの数字表示が逆になっていても、その数字自体を単に何かの印として捉えれば時間は読める、つまり実用になり得る。
こういう、一見ネガティブな要素をわざと取り入れる、そして余計に手間をかけて使ってもらう、着てもらうというのも、僕らの洋服企画のコンセプトの一つでもある。また、反転したダイアルのデザイン自体が、僕らが過去に見てきたアメリカの大量生産の洋服にたまに見かける、レーベルが逆さについているものや、袖が左右逆に付いているもの、あるはずのポケットが忘れられてるもの等、ミスプリントの切手のような、手違いで生産された、いわゆる不良品に感じる面白さ、暖かさ、美しさ、そんな感覚にも通じるところもまた僕らの大好物の一つだ。こうやって決まってきたデザインを果たしてどんなベースに落としこむのがベストか。これも、当初からタイメックスとして一番普通の、ベーシックなモデルとしてキャンパーを考えていたのだけど、たまたま昨年末に発売になった例の米軍支給モデル復刻版キャンパーの話を頂き、即決した。ヴィンテージ感のある正統派のデザインの方が、逆にこういうデザインには最適だと思うからで、復刻の数あるディテールのおかげで、ミラー反転のダイアルは本当に目立たないというか、微妙なディテールほど正統派の中では生きるというか、逆の逆を考えて元に戻ってしまうというか、マイナスにマイナスはプラスというか、反対の賛成は賛成の反対というか。分かりにくいと思いますが、これもら僕らの大事なコンセプトに帰する要素です。そのままではなく逆を行くか、さらにひねってそまた逆を行くか、裏をかいて、さらに裏をかく、そうすると結局元に戻ってしまって、何も変わらなかったという事も。見た目は普通でも、その裏にはほぼ不必要な、まるで意味のなさそうなほどの行程があったりするのだけど、結局はともかく、このプロセスが大事。これでいいのだ。

社ロゴまで反転させてくれた Timex 社の心意気に感謝しています。また、素晴らしいパッケージを作ってくれた Timex Japan の北山さん、野口さん、ありがとうございました。 

ではまた次回。 

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DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

NEPENTHES AMERICA INC.代表 「ENGINEERED GARMENTS」 デザイナー。 1962年生まれ。 89年渡米、 ボストン-NY-サンフランシスコを経て、 97年より再びNYにオフィスを構える。 08年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。 日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。