New Normal

世界を変えてしまったコロナが未だに引きずる中、ロンドンからパリ、ミラノと洋服のシーズンが変わって行く。
全てがデジタルとオンラインに向かっている。僕らも例外ではない。NYでは通常通りに展示会をスタートしたけれど、この場所に来られるお店の人たちは非常に少ない。ほぼ全てのお店に今回初めて用意したオンライン展示会を通して僕らの21年春夏サンプルを見てもらう。本当に凄い世の中になったなと改めて思う。

先日、知人と連絡したとき興味深い話を聞いた。

彼はずっと仕入れ担当で、バイヤーとしていつもヨーロッパ、アメリカを飛び回っていた人だ。当然今シーズンはぼぼ全てのオーダーをデジタルで、オンライン上ですることになった。彼曰く、ずっと洋服の仕事をしてきて、いつも展示会の時期は特別で、とても大事な時間だと言う。それぞれのショウルームや、トレードショウに足を運び、一歩踏み入れたその瞬間から全てが始まる。勝手知ったる馴染みの場所から、初めて訪れる新しい場所まで、最初に目に飛び込んできたもの、聞こえた音、スタッフの働く雰囲気、全てが五感に刺激する。もちろん洋服は洋服だけど、その見え方や、感じ方にとてつもなく高揚して興奮する。そうしたエキサイトメントや、視覚や他の感覚に訴えてくるその場の雰囲気からのインスピレーション、これが仕入れの、バイイングの起爆剤になる。もちろんその逆で、がっかりするパターンもあるのだけど、それはそれでまたエキサイティングなのだと。こういうのはいわゆる感情型で、比較的古いというか昔気質のタイプで、今時はどこへ行っても沈着冷静に数字を見据えてバイイングをする人も多いし、望まれている気もする。僕個人的には、ま、古い世代でもあるので、前者に加担したくなる。とりわけ僕らが好きな洋服というのは、そのモノ自体はもちろんだけど、その廻りや、バックグラウンド、そこに至る全てのプロセスが興味深い。ここに刺激されて興奮してしまう、そしてその感動を現場、店頭にそのまま持ってきてしまう、伝染病のように売り場のスタッフに感染し、その熱はそのままお客さんに。熱はしばらくして覚めるし、見慣れてしまうけれど、またシーズンが始まると、わかっているのにまたその熱に感染してしまう。しばらく潜めていても、ある時突然にまた発病してしまう。阻止する特効薬はない。実は今、途中からわざと意識して書いていたのだけど、これって何となくコロナに似ている気がする。

オンライン展示会とかでは、その感情を揺さぶる刺激がなく、単調で何を基準に選んで良いのかの判断が非常に難しい。というのが彼の感想だった。コロナで拍車がかかり、世の中はよりデジタル化が進み、全てがオンライン。僕らもついにオンライン化を果たしてしまった。今後NYのお店が再開しても、そのオンライン化の波はどんどん押し寄せてくるのだと思う。新しい価値観、新しいバイイングの興奮を、新しい時代の新しい世代が作って行くのかもしれない。行くつく先に何があるのかわからないが、何となくデジタルが進めば進むほど、逆にアナログに惹かれる事もあり得るかな。CD 時代後のレコードのように、これからはデジタルだけではなく、昔に逆行するような何かも共存できて欲しい。見た事がない新しい洋服を探して探検者のように旅行しまくった大昔のような感覚がいつかまた出てきても良いと思う。と、閑散としたショウルームを見ながらふと考えていました。

ではまた次回。

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DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

NEPENTHES AMERICA INC.代表「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。08年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。