Martin Margiela

あれは多分90年代の始め頃、たまたま清水さんと57丁目のシャリヴァリに立ち寄った時。
ざっと商品を見て廻って、一つ分厚いメルトンのコートが目についた。何だろうと広げてみると、どうもピーコートのようだったのだけど縫い合わせ部分が全くアイロンでプレスされておらず、なんだかメルトンの風船みたいなアウターだった。 一体どこの誰がこんなもの作ってるんだろうと、襟元のレーベルをさがしてみると、何も書かれていない真っ白な木綿のレーベルが4隅を手付けで縫われていただけだった。

今回久々にパリの展示会、マンウーマンショウに出展してきました。
ヨーロッパで、この時期の展示はもう5年以上前にピッティを辞して以来。当時に付き合いのあった取引先など、なんだか懐かしい友人とたくさん会えた、同窓会みたいなショウでした。この展示会のついでに、本当に前日設営までの時間が空いていただけの理由で、パリで評判だったマルジェラ展を見に行くことができました。友人たちからも、展示の内容はざっくり聞いていましたが、想像を遥かに超えた素晴らしいものでした。
ずっと長い間、その名前は有名で、シーズンの度に話題になり、商品でさえ結構見た機会は多かったと思う。あの有名なエイズのプリントTにしても、タビブーツにしても。だけど、この展示を見て思ったのは、僕はマルジェラの一体何を知っていたんだろうと言う事。本当に僕はいいかげんで、マルジェラの一連の作品を見て行きながらも、何故か彼は僕よりも多分10年くらい年下の天才なんだろうと勝手に想像していたのですが、よく考えてみたらデビューは89年だし、以前はゴルティエのアシスタントをしてたのだから、年齢的にはほぼ同世代というか年上だろうというのは明らか。なんでそう思ったのかは、きっと彼の作品や、やってきた事がカッコ良すぎて、あまりにもクールだったので、それは当然若い世代の才覚によるところなんだろうと勝手に決めつけていたからだと思う。実は僕よりもかなり年上だと知って、百倍ショックを受けてしまった。 時系列順に並べられた彼の展示は、まるで昔に熱中して読んだ三国志のごとく興奮しながら、次は何を見ることができるのかワクワクしながら、同時に彼の仕業の面白さをちょっとも見逃したくないと隅々までじっくり見つくしてしまった。

アイデアが面白い。その切り口には何となく共鳴できる部分もいくつかあって嬉しかったが、出来上がったかたちは衝撃的だ。彼のもの凄いところは、このアイデアを最終的にこなす作業が、手口が凄い。想像を絶するレベルで、絶対的に先を行っていると、これでもか、これでもかと思い知らされる。最初から競争なんかするレベルの人でないのはわかってるが、さすがに、こんなに違うと結構くやしい感じもする。僕らは末端とはいえ、同じ洋服屋として。

昔、90年代の半ば、ロンドンで某バイヤーさんと食事した時、毎シーズン買い付けにくるパリで毎シーズン見に行くのが大変なファッションショウがあるとぼやかれた。場所がもう辺鄙なところでばかりやって、行くのも大変だけど、帰りが大変だと。こんなところで毎回ショウをやるのには本当に参ってしまうと。その時に誰のショウですかねと聞いたら、返ってきた名前は、、、そうです、その人です。正解です。 まだご覧になられた事のない人で、7月15日までにパリに行かれることがあったら是非見てほしいと思います。

ではまた次回。

最近の投稿記事

DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

NEPENTHES AMERICA INC.代表 「ENGINEERED GARMENTS」 デザイナー。 1962年生まれ。 89年渡米、 ボストン-NY-サンフランシスコを経て、 97年より再びNYにオフィスを構える。 08年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。 日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。