First Position

先日、既知のNYをベースに活躍するグラフィックデザイナー夫妻と食事の機会があった。
彼らは某大物アーティストとのプロジェクトや、諸外国当局からの仕事など、その内容はもの凄いのだけど、会うと普通で面白い。だけど話の中で仕事がらみになってくるとやっぱり熱が入ってくる。

特に印象に残ったのは、若い世代のアシスタントたちが、いわゆる昔の、本当の意味でのカット&ペースト、つまりレタリングの切り貼りで作品をつくることを知らない、知る必要も感じないという話だった。ま、よく同じ世代が集まると話す事なんだけど、僕らが生きてきた時代はもしかしたら最もドラスティックにいろいろなものが変わっていった時期ではないかなということ。電話が一家に一台もなく、TVにはちゃんとチャンネルという廻して操作(笑)するものが付いていた時代から、インターネットはもちろん、携帯電話に、電気自動車の世界に生きている。若い世代の人は当然、本当のチャンネルも知らないし、インターネットも、パソコンも、携帯も生まれた時から、水道や電気と同じように当たり前にあったものだから、コンピューター出現というか、一般的なった以前の姿は想像も出来ないだろうし、する必要もないでしょう。だけど、彼が言うには、そのマニュアルの作業を知っていてパソコンを使うのと、知らないで使うのでは違うと。それはどこが、どのように違うのか、うまく説明できないけれど、その違いが微妙なところに出るという事だった。

似たような話を大昔に、東京でコピーライターをやっている友人に聞いた事を思い出した。
こっちも専門外の事で、ちょっと昔の事だし、はっきりとは覚えてないが活字の事だったと思う。活字を組み合わせて活版を作る。大変な作業だったのだけど、今は簡単にコンピューターで出来てしまう。だけど、マニュアルで作った活版は、自分の目で、活字と活字のスペースを調整したりして、いわゆるパソコンのフォントみたいに一律では作らない。単語に寄って、あるいは文体によって、その隙間をほんの少しだけ狭めたり、空けてみたり、これがつまり活版に作り手の感情が入るというか、活字が生き生きしてくるという話だった。酔った酒の席だったので、ふーんと軽く流して聞いていたし、多分、パソコンがあまりうまく使えない言い訳なんじゃないかと思ったりしてたのだけど、どうもずっとどっかにこの言葉が残ってたんだなあ。

当時、僕はパソコンの強烈な洗礼を受けて、パソコンこそ未来を制す、じゃないけど、何でもパソコンだった。イラストレーターなんてのも、我れ先に使ってみて、ああ便利だ、便利だと大はしゃぎしていた。いやいや大してちゃんと使っていた訳でなく、相当時間かけてああでもないと作ったひな形をずっと保存できて、いつもそこから始められるからとにかく便利だったし、見た目が奇麗で、奇麗だとプロ仕事のように見えて気に入っていた。それが、今から10年くらい前に急に使うのを止めた。今考えても、何で急に思い立ったのか分からないけど、止めた。止めて、鉛筆を持って紙に描きだした。

よく、ワープロを使ってると、漢字を忘れるってのがあるけど、何か久々に手描きした時に何だか全然描けなかったのが一つのきっかけだったかもしれない。とにかく、またマニュアルで描きだしたら、これが面白かった。上がりは鉛筆が手に、紙に擦れて汚いし、消しゴムがそれに拍車をかけるし、手は疲れる。だけど、よく考える事ができた。描いてる最中に手が滑って、そのまま、その線に任した事もあったし思いがけない発見もあった。そして何より、手が覚えていく感覚が恐ろしく嬉しかった。と、書いてると、かなりクレイジーな人に見えるだろうから、この辺で止めておきます。要は、今時なんでもパソコンとかで出来ちゃうけど、昔式のマニュアルも悪くないよ。という事です。できるなら両方知っておいても良いじゃない。っていう感じです。

さて、話は全く変わります。
先週末に見た映画が凄い良かった。タイトルは、”First Position”。クラシックバレエのドキュメンタリー映画。Youth America Grand Prix という世界最大のバレエコンクールに臨む6人の子供たち。前回同じ場所で違う映画を見たときに予告が気になって気になって見にきたもの。いやあ、素晴らしい映画でした。子供の頃、バレリーナといえば、金持ちのきれいな女の子だけが許される特別の習い事。だからなのか、女の子の憧れを一手に受けていたような感じがしたけれど、現代はどこの有名カンパニーも苦しい台所。需要がすくなくなるばかりなのに、そこに立つ事を夢見て多くの子供たちが日々厳しい練習をこなす。子供の世界なのに、そこには栄光やら、挫折やら、もう、りっぱな大人のプロスポーツさながらの世界が存在している。でもそこに共通なのは、バレエが好きだという事。審査をしている有名カンパニーのディレクターたちのコメントにも、その希望を感じとれる。ここで見える違いは、何の差なのか考えていたら、ちょっと涙がこみあげてきてしまった。日本で公開の予定があるかわからないですが、もし見かけたら是非観てください。

ついでに MOMA も久しぶりに行ってみました。
ディエゴの最終日という事もあったのだけど、意外に空いていて快調でした。
さらに調子に乗って、シンディーシャーマンまで。
おかげで、その夜は結構シュールな夢に。ロシアの劇場にディエゴが立って舞台のバレリーナのコスプレしてるシャーマンを描いているっていう。構図としちゃあ面白いとは思うんだけど。
そのままだろっていう突っ込みも聞こえて来そうな。
ではまた次回。

おっと、殆ど忘れるところだった。
活字の話で、最近出版された昔の雑誌「 Gentry 」の合本みたいのが出ました。これがよく出来てるんですが何か物足りない、その話を書こうと思っていたのですが知らないうちに違う事を書いてました。
次回に廻します。

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DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

NEPENTHES AMERICA INC.代表「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。08年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。