Coincidence

なんとも言えない因果を感じるのは僕だけなのか。
80年代末、まだアメリカに移住してきたばかりの頃、長いドライブのはてにバーモント州の北部へ、ハンティングジャケットメーカーを訪ねた事があった。当時はまだ日本人が買い付けにわざわざ現地まで来る事が珍しかった時代。メーカーの社長も驚いていたけれど、歓迎もしてくれた。村のダイナーに食事に連れて行ってくれたのは良いけど、そんなアジア人が珍しかったか、僕の格好が酷かったのか、お客さん全員の視線を浴びてしまった。ま、普段見慣れないアジア人が常連ばかりのレストランに連れてこられたら確かに興味の的になるのは仕方なかっただろう。僕自身も何も考えずにこんなに田舎によく来たなあと思っていたのだけど、社長さんと話してるうちに実は先週も珍しいお客さんが来た事を聞いた。それは2人組で、わざわざイタリアから買い付けに来てくれたのだそう。目的は僕と同じ。しかもハンティング屋さんではなく、やっぱり洋服屋だと聞いて驚いた。ほぼ同じ時期にイタリアと日本から直接買い付けに来たというのは彼らにしてみれば、事件だったんだろう。

それから少し経って、シアトルのダウンメーカーに買い付けに行った時。通常の定番デザインのジャケットに混じって、ちょっと変わったデザインのジャケットが混じっていたので聞いてみると、わざわざイタリアから買い付けに来た人たちから、自分たちのお店用に特別デザインをお願いされてもう数年だと聞いた。この時も、やっぱりイタリアの人は何だか知らんが同じところを歩き廻っているなあと感じていた。だけど、直接僕らの日本の市場には関係ないので、ふーん何か不思議だなあと大して気にもとめていなかったと思う。

それ以来10数年もたって、偶然にもイタリアの会社と仕事する機会があり、その時に出会った人たちとたまたま話していて、あのバーモントや、シアトルですれ違ったイタリア人が、ここの人たちだったとわかって本当にびっくりだった。それぞれの記憶を辿って、何年の何月、担当の人の名前、買い付けた商品、などなど共通の情報が、出て来る、出て来る。どうしてこんな事になったのか、不思議で不思議でしょうがなかったが、これが縁でその張本人、A氏とは以来、今も非常に仲良くさせてもらっている。

さらにイタリアに関わる事がある。
まだボストンに住んでいた時代に買い付けていた、いわゆるファイアマンジャケット。厚手のキャンバス地で取り外しの裏地、フロントはメタルのファイアマンフック。当時はこれがカッコ良くて、今となってはどこで見つけたか忘れたのだけど、ブランド名は『E.A.FAY』。普段は物を見つけても、仕入れのためにどこへ問い合わせて良いかわからず苦労したもんだが、このジャケットは何とレーベルに住所、しかも電話番号まで記載されていたからびっくり。もちろん直ぐに電話して会いに行ってみると、その住所は彼の自宅であった。ブランド名は単純に彼の名前であり、奥さんも彼もアイリッシュ系のアメリカ人。実は地元のベイサイドというボストンのショウルームビルにオフィスもあり、以来オフィスでの商談が多くなったのだけど、もともとは洋服の営業をやっていた人、扱っていた商品の会社がビジネスをクローズするに至り、工場と直接交渉して商品提供を続けたのだった。何度か買い付けてるうちに、ケンブリッジにあった工場にも僕が直接荷物を受け取りに行くようになり、初めてアメリカの工場の現場を見たのがこの時だった。E氏は、そこでも実は一番のお客さんはイタリア人だと教えてくれた。ファイアマンジャケットは、僕の場合はラルフローレンで知ったデザイン。なんとなくアメリカの象徴的なアウターウェアの一つとして、日本でも人気があり、多分同じようにイタリアでも同時期に人気があったようだ。イタリア語なので、何を言ってるかわからないけれど、オリジナルの E.A.FAY Turnout coat を語っているイタリア人の動画が残ってる。

これなんかを見ても、E.A.FAY のコートはイタリアで、かなり人気あり、多分それを扱っていたイタリアの会社がE氏のお客さんだったのだと想像がつく。僕は90年にNYに移転し、そのためにE氏とも連絡が減り、気がついた時にはケンブリッジの工場は閉鎖され、E氏はリタイヤしてしまっていた。それ以降、ほとんどそっくりな E.A.FAY  のコートを別のレーベルが付いていながら、Made in USA だった物など見かけることはあったけど、それも別段気にしてはいなかった。ま、あとから分かるのだけど、その頃は工場が元のケンブリッジから全く別のウェストチェスターの工場に移っていて、多分お客だったイタリアの会社がどういうわけか引き継いで作り続けていたのだと思う。もう詳しい情報もないけれど、当時は僕自身の興味も別のところにシフトしていたせいで関係も無くなり、今思うと非常に残念。

ところが数年経ったのちに、何とあの E.A.FAY がイタリアの高級ブランドとして存在しているのを知った。もちろん最初は、あの E.A.FAY とは思わなかった。しかし同じ名前だし、何だか知らないがファイアマンコートっぽいデザインがあり、他のデザインにも逐一あのメタルフックが使われていたりしていた。推測するに、イタリアの取引業者か誰かが、リタイアしたオリジナルの E氏から版権を買ったのだと思う。ウェストチェスターに移った時にはもうそうだったのかどうか、本当のところはよく知らない。だけど、あれほど僕が関係していたE氏のブランドが、イタリアに渡って高級ブランドになりつつあるのは本当に驚きだった。こんな事もあるんだなあと、感慨深く思いながらいたのだけど、その E.A.FAY がどんどん洗練されて現在はブランド名もあらたに E.A. が取れて「FAY」として一流アウターウェアブランドに成長しているようだ。ブランド名の頭にあったイニシャルが取れて成長してきたブランドと言えば、もう一つ思い当たる。J.P.が取れた「Tod’s」だ。実は、この2つのブランドは同じ会社、とういうか Tod’s グループの1ブランドがFAYだ。うーん非常に興味ぶかい。ネペンテスとTod’sの過去の取引を考えるとね。これを知った時に改めて、なんとも言えない因果を感じてしまった。

今年はコラムの更新がダメダメの1年でした。
来年こそはもっと頻繁にと今の所思っています。
いろいろとお世話、サポートになりました。
来年もまた宜しくお願いします。
Happy Holidays! Wish you a great year of 2017!!!

ではまた来年。

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DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

NEPENTHES AMERICA INC.代表「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。08年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。