Balance

今みたいに新しいシーズンのサンプルを作っている時、よく思い出す2つの事。
一つは遠い昔、まだ学生だった頃の東京。当時すでに定評のあった渋いデザイナーブランド、Tのオーナーで、デザイナーだったS氏。仲間の一人がどういうわけか知り合いになったのを良い事に、事務所へ遊びに行くときについて行ってた。 コーヒーをご馳走してくれながら洋服の話になった。何色が好きなのか聞かれて、生意気だった僕は、黒とネイビーとグレーだけあれば、あとは何も要らないです。と豪語した。ま、コムデギャルソンに没頭してたし、その時は本当にそう思っていたと思うけど、アホだなと今も思い出す。S氏はそれに対して普通に、たんたんと「鈴木君は、色に対してブスだねえ。」と言った。あの時は、いやいや、そんな事はないですよ。と内心思っていたと思うけど、あれ以来この言葉は今だに忘れられない。

もう一つは90年代に、NYイーストビレッジにできたお店、Upland Trading Co. のオーナー、A氏。 仲良くさせてもらっていたNYのデザイナー、Christopher に教えてもらった店で、あの90年代の半ばに、今では当たり前のブランド、バブアや、フィルソン、マッキントッシュなど、いわゆるカントリーウェアの銘品を集めたセレクトショップだった。
大人の渋いセレクトで、A氏の知識と審美眼が凄かった。ファッションとは一線を画したところで、一流の日常生活着を目指していて、それが大都会のNYにあるのがとても格好良かった。 何度も通って仲良くなり、21世紀に入ってからは、自分たちで始めたブランド、EGを、まだ日本市場でしか展開していない時期から彼のお店にダッフルバッグにサンプルを入れて見てもらいに行き、いくつかお店で扱って貰っていた。自分たちの作った洋服がNYのお店で扱ってもらえるのは無茶苦茶嬉しかったのだけど、サンプルを見てもらった時の彼のコメントは結構厳しかった。洋服を作り始めの頃は、ブランドのアイデンティティを出そうと、ジッパーは全部赤色で統一したり、パンツのウェストバンドや、ポケットの袋を柄物や、プリントのシャツ地で作ったりしていたのだけど、A氏はそのシリーズを見た途端にChildish! と一言。子供の服じゃねえんだから、俺はこんなの着られないよ。とばかり、ばっさり。これも未だに忘れられない一言。両方とも実は非常にショックだったからね。
でも、あの時にこの言葉を貰わなければ、僕は一体どういう方向に行っていたかと考えると、本当にラッキーだったなあと今は思う。色に対する意識を作り、偏見を取り除けた事。デザインしないデザインディテールのないというディテールの事、バランスが大事だと考える大きな転機を作ってくれた。さて来春のサンプルは今のところ順調に上がってきています。最終的にどういう風になるのか、自分でも楽しみなところです。

最近の業界ニュースでは、ケイト・スペードさんの件はびっくりでしたが、5番街の老舗デパート、Lord & Taylor が閉店するというのも気になりました。Bonwit teller や、B.Altman & Company を思い出しながら、これも時代なんでしょう。 

個人的には、先月、釣りのシーズンが始まりました。日本からのお客さんに帯同したのですが、今年初の釣行で小さなブラウンを釣りました。些細な事ですが、俄然やる気になってます。次回が楽しみです。

ではまた次回。

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DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

NEPENTHES AMERICA INC.代表「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。08年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。