還暦

川に浸かったレザーのランディングネットケースを陰干しして、布にとった防水用の蜜蝋を塗る。表面全体に十分に塗り終わったら、ドライヤーで全体を熱して蝋を吸収させて、そのまま磨き上げる。だんだんと浮き出る光沢を楽しみながら、先週の北海道遠征を振り返る。目の前にはキンキンに冷えたビールのグラスが汗をかいている。至福が過ぎて、怖いくらいの週末だった。

先週の遠征は、半年前から計画していた特別なものだった。NEPENTHES代表である清水慶三の60歳の還暦祝い。もちろん会社として会場を借りて盛大な還暦パーティをする頭でいたのだけれど、来賓の皆さんに気を遣わせてしまうのが嫌だと拒否権が発動。結局、ご家族や業界の諸先輩方を差しおいて、釣り仲間たちでプライベートなお祝い旅行をすることになった。

誕生日の前日、清水さんが一切気を遣わないでいられる、という理由で声のかかった15人の仲間が旭川空港に集結。その時点で、すでにだいぶ満足。この歳になると、気の置けない仲間が大人数で集まれただけでもかなり奇跡的。旅行といっても、清水さん本人が楽しいのが一番ということで、やっぱり釣り三昧の3日間。チーム戦で朝から夕方まで釣りをして、夜はバーベキュー。大人になってこんなに真剣に遊んだことはないというくらい遊び倒した。

いつか死ぬ時が来たら、走馬灯のようにあの日々の思い出が浮かぶだろうし、これから先、もう一度あんな日々を過ごせるかといったら、あまり自信がない。そのくらい最高な日々だった。そして、ついには何のご褒美か分からないけれど、精霊のような素晴らしい鱒とも出会えた。その風格に鳥肌が立ち、その威厳にひれ伏した。自分はいつかあんな存在になれるだろうか。背筋が伸びる思いで、その鱒が流れに戻るのを見送った。

今年は清水さんの還暦と、NEPENTHESの30歳祝いがダブルでやってくるメモリアルイヤー。張り切って乗り切ろう。もうすぐ夏休み。皆さん良い旅を!

TOKURO AOYAGI 青柳 徳郎

NEPENTHES ディレクター。 1970年生まれ。 東京都出身。