Roll away the dew
Western State Endurance Run 2022 (後編)
サンフランシスコ行きの飛行機は満席。
規制がとれた瞬間からアメリカ系航空会社に乗る際にはマスクをしなくても良くなった。 僕にはまだちょっとできないが、 以前より緊張感はすっかりとれている。 ”マスクで感染が防ぎきれないことも実感しているし”
IPadにいれていた ”Fantastic Fungi” という菌類の可能性を探った秀抜な作品を鑑賞していたらいつの間にかサンフランシスコに到着していた。 日本からWSに参加する、 なみねむさん (タカさん) と空港で待ち合わせ、 レンタカーで寄り道しながら、 サクラメント近くのFolsomに住む大先輩Kuni Yamagata (クニさん) さんの家に向かった。
”サクラメントに着くと照りつく太陽に溶けそうになる”
夕方5時過ぎの温度は38度を超えていた。
初めの2日間は山形邸にお世話になり、 その間にできるだけアドバイスとヒントを頂いた。 翌朝、 軽いジョグを三人でWS終盤コース近くで。
“とうとうやってきた”
カリフォルニア3日目の午前中、 レースのスタート地点であるオリンピックヴァレーに向けて出発。 約1時間半、 車で山を登ってタホ湖の方へ向かっていく。 Olympic valleyは1960年に冬季オリンピックが行われたスキーリゾート地。 Squaw Valleyと呼ばれていたが、 差別的な意味を持つ名前ということで数年前にOlympic Valleyと改名された。
WSコースには大きく分けて二つの顔がある。
スタートエリアは、 High country と言われて標高は1900Mあり、 そこから2650Mの山頂まで登っていき、 標高1500M以上をキープして、 40マイルほど進んでいく。 それ以降Last chanceから渓谷に入っていくのですが標高もグッと低くなっていき、 ゴールまでは40度を超える熱気いっぱいのエリアに入っていく、 そこをLow countryと呼んでいます。
大会前日、 選手のチェックインとメディアによるイベントなどが行われ、 この小さなリゾート地が一気にお祭りモードに変わる。 僕らの気分もようやくレースモードに切り替わった。 前日の夜に、 最終的に大慌てで調整したドロップバックをしっかりエイドごとに配置した。
”標高が高くなったせいか、 変な頭痛と首が痛い、 センシティブな自分”
朝はスタート地点から山の中腹くらいまでをタカさんとジョギングしてみた。 思っていたよりも初めの上りはキツくなさそうでした。 少し肩の荷がおり、 どんどん集まってくる人だかりのあるスタート地点へ戻っていく。
今回の大会には、 後半60マイルからゴールまでペーサーを頼みました。 RDLに一緒に参加したカリフォルニア在住の友人 Shinya Nakata (シンヤさん) さん。 彼のトレイルランニングに対する熱い気持ち、 お話しした際に伝わってきた誠実さなどなど、 自分の初めての大きなレースに出る際の、 初めて頼むペーサーにふさわしい方だと思いました。
シンヤさん、 クニさんと奥様のデイジーさんも加わり、 会場でのサイト周り、 友人、 有名人との交流などを早々に済ませ、 僕らはホテルへ戻り、 タカさんはサポートメンバーの飛行機が遅れるということで夕食は適当に済ませることになり、 僕とシンヤさんとで山を見ながら、 さっとハンバーガーを食べて、 明日朝3時起きに向け9時半にはベットに入りました。 時差が手伝ってすぐ眠りにつけました。
2時半には目が覚め、 テーピングを貼ったり、 最終準備、 コーヒー、 朝ご飯などをしていたら、 出発時間になりました。
2022年、 6月25日 5:00、 大会スタート
興奮はしていましたが、 体は目覚めたばかり、 コケたり、 足を捻ったりしないように、 初めの20分は本当に慎重に、 この半年間の練習、 生活を振り返りながら進んでいた。
トップ選手たちは早々に駆け上がっていき、 どんどん見えなくなっていった。 体が動き始めたので、 走ろうかと思ったけど、 気持ちを抑えてパワーウォークとジョグ。 人の流れが多く、 頂上に行く前にシングルトラックでは早くも渋滞気味。
”もう少し小走りしたほうがよかったのかなあ”
すんなり頂上に到着。
頭痛も首の痛いのも、 その頃には無くなっていた、 一体なんだったのだろうか? さあ走り始めるぞっと数マイルいくと、 渋滞というかシングルトラックで脇からも抜けない感じになっていた。 ちょっと不安になり、 なるべく詰まらないように脇から抜くように心がけて進んだ。
”人それぞれペースがあるが、 僕の目標は24時間以内完走だ、 先を急がないと”
そんな場面が何度も続き、 焦りからか抜きがけに派手にヘッドスラディングをかましてしまった。
”怪我はない、 悩まず進もう!”
レース中、 自分が持っているタイムチャートを要所要所で確認することを心がけた。 はじめのエイドで、 約45分遅れが出ている。 その次のエイドで、 1時間の遅れを確認。 これは急がないといけない! 1時間の遅れとの戦いが始まった。
Duncan Canyonのエイドにて、 サポーターの方達が待っていてくれた。 なんと心強いのか! 時間の遅れがあることを伝えると、 藤岡さんは大丈夫! 良いペースだよっておしゃってくれた。 シンヤさんも身体中に日焼け止め塗ってくれて僕は真っ白になった。 手際よく氷などをもらい前に進む。
次のエイド、 Robinson Flatでも同じように補給だけ済まして、 氷をしっかり、 帽子、 バンダナ、 パックの中 (背中) に詰め込む。 ここではクニさんが待っていてくれた。 なんと心強かったか! デイジーさんのおにぎりもいただき、 ちびコーラを一本飲み、 食べながら進み出す。 体のダメージはまだない。
ここから先、 Low countryに入っていく、 コースプロファイルは下り基調、 常時走っていた気がする。
Last Chanceに到着。 このエイドが僕の中では一番印象深かった。 到着後、 進んでいくと一人の女性が僕の前に立って、 誘導してくれる。 まずは水、 氷の補給、 (説明をしていませんでしたが、 灼熱のWSではいかに氷をしっかり補給して、 体を冷やしながら走るかが重要になります。) それが終わると前に誘導され頭を下げろって言われます。 氷水の入ったジョウロで上半身にシャワーされます。 これがセンセーショナルで、 今まで感じたことのないほど冷たくて気持ちの良い ”目覚めのシャワー” なのです。 生まれ変わったような感覚です。 正直ビビりました。 このまま死ぬのでわって! その後は、 大きなスポンジを持った方々が身体中を拭いてくれます。 手と顔を洗えって勧めてくれました。 そう、 ここは、 人間洗車場のように身体中を冷やしてくれます。 最高のホスピタリティーを受けると彼女は、 ここから渓谷が続き、 一気に温度が上がるから心して進んでねって、 優しい言葉をかけてくれました。 呆然のまま進んでいくとトレイルの脇には手書きのポスターがいっぱい。 読みながら歩いていると自然と涙が。 みんなに応戦されている気持ちになり、 さあエンジンスタート。
1時間の遅れ発覚以降は、 ここでも1時間遅れを短くすることはできていないが、 目標区間タイム内には走れている。
1個目のキャニオンは、 ズルズルっと始まっていった。 温度は上がるものの自分が予想していたほど熱くは感じない、 暑熱順化と氷のおかげ。 キャニオンを降り、 登りつくとDevil’s Thumbというエイドについた。 入り口で、 25時間ペースだと言われた。 (知っているよ、、って思ったけど) ここではアイスキャンディーがあると聞いていたので、 もらって食べながら前を急いだ。
2個目のキャニオンが一番大きなキャニオン、 さっきのキャニオンでも感じたが日本の葛折りの山道に似ているなあと思いながらシングルトラックを川まで降りていく、 下には水にはいれる川が、 今思えば入らずに進めばよかったのだが、 とりあえず浸かってから、 前に進んだ。 この頃から、 コース上に熱中症で動けなくなっている強そうなランナーのゾンビ状態を見かけるようになった。
キャニオンのてっぺん、 Michigan Bluffについた際には、 なんだかゆっくりしているランナーが多いなあと感じた、 ビールやワインを飲んだりしている人もいた。 余裕なのか? 諦めているのか? はわからなかったが、 僕はシンヤさんが待っているForest hillに19時台にはつかないといけなかった! 足を止めたらダメだ。
前を急ぐ
足は動いている、 足裏の皮膚が川などで濡れたりしていたので、 ふやけてそこが固まり、 大きなまめになっているのは感じていたし、 幾度となく打ち付ける足裏は悲鳴を上げていたがこの痛みは気持ちで消せた。 そのほかの身体たちは元気に動いているし、 補給もサプリも問題なくできていた。
ただ1時間の遅れがネックで、 62マイルForesthillについた、 20時15分ごろには自分では少し24時間以内は諦めかけていた。 クニさん、 シンヤさん、 みんなが迎えてくれたこのエイドでは、 英気をチャージ。 まだいける! ここから走ればいけるって! いってもらった時は僕のエンジンがもう一回かかるのがわかりました。
”レースはここから”
100マイルレースは70マイル以降からレースが始まる。 シンヤさんに全てをたくし僕は走るのに徹しました。 進める足は、 着地するたびに悲鳴を上げていましたが、 体は動くし、 まだジェルも補給できた。 息も上がっていない。
”無心” で足を進める。
夜になり、 僕にはシンヤさんの足元しか見えていなかった。 3個分のエイドをほぼノーストップで進むと、 結構疲れてきた。 ようやく徒渉エイド、 Rucky Chuckyに到着。
川はとっても冷たくて、、 震えながら足を進める。 温度調整がうまくいっていたせいだと思うけど本当に冷たい川だった。 ここで靴を変える予定だったが時間がないということで、 そのまま進むことに。 そこからも下りと平地は走り、 登りはどうにか足をすすめ、 とても走りやすいALTを超え、 Quarry Rdエイドにたどり着いた。 トイレに行きたかったのでいくと、 WS6回連続優勝の記録を持つスコット ジュレックの仮面が飾ってあった。 変なトイレだなって思ったら、 エイドのテーブルにスコット本人がいた! ”彼はガンバ、 ガンバッ” って言いながら応援して、 グーパンチ。 次、 目指すは山の上のエイド、 でも足が本当に上がらない、、、。 登り切った山の上に数人のボランティアの方達がいました。
”エイドまで1マイル、 ゴールまで7マイル” だよって大きな声で言われて、 はっと思った僕はずっと見ていなかった時計を確認。
24時間以内まで、 あと残り45分。
そう、7マイル45分間は現実的ではない数字になっていた。
僕は、 ここで初めて自分の戦いが終わったのを確認した。 シンヤさんはもちろん気づいていたに違いなく、 それでも僕のレースを続けてくれていた。 僕は、 ”正直に彼にこれは無理ですね” と伝えた彼が泣いているのがわかった。 僕も自然と涙が出てきていた。 期待に応えられない悔しさいっぱいで、 僕は謝っていた。
明け方の空が少し青くなりかけてきたトレイルを二人で歩きながら。
ここまで頑張ったから最後は二人で笑ってゴールできたら良いなあと思いました。 その旨伝えると、 シンヤさんはすんなり了解してくれた。
ようやくノーハンズブリッジにたどり着いた。 明け方の光で、 アメリカンリバーが青く強く光っていた。 ボランティアの方の元気が眩しかった。 シンヤさんと記念撮影。
気が抜けた瞬間、 僕の身体中の力と痛みに対する耐性のダムが決壊した。 体の力が入らなくなっている。 どうにか最後の山を登り、 住宅街に入った。 この時間帯は、 あんまり人がいない時間帯なんだろうか? ランナーも街の住民も誰もいない、 僕とシンヤさんしか街にいないような。
ゴールであるPlacer High schoolを目指す。 ちょっとした傾斜が本当に辛い、 脚が上がらない、 一体自分の体はどうなっているのだろうか? それでも進まないと。
ちょっと長いのですが、気持ちがこもったゴール動画
ようやく人の声が聞こえた! 先にゴールしたタカさん、 ペーサーをしていた藤岡さんと奥様の芳子さん、 みんなの顔を見たらまた泣きそうになった。 止まっていた足を動かした瞬間、 大会のライブビデオカメラマンが一緒にトラックに進んでくれた。 夢にまでみたトラックにようやくたどり着いた。ここから1周トラックを走る。
他に走るランナーはいなかった。 司会の方が、 僕の名前と事前に送っておいた文章を彼なりの解釈で読んでくださった。 ”もう、 終わってしまうのか” っていうのが本音でした。 体はボロボロだけどめーいっぱい挑戦して、 ギリギリまで諦めなかった。 レース中、 ほぼ座らなかったので、 今一番したかったことは座ること。 最後の直線、 なんとも言えない感情が込み上げた。 ”また帰ってきたいなあと”
最後、 スピードダウンして歩いている時、 シンヤさんが、 ”自分がWSに出る時には389番を申請する” (WSは抽選で当たると希望の番号を申請できる、 僕はWaitListだったのでできなかったですが) と言い出した。 それは今回のリベンジっていう意味だったと思う。 そこまで気持ちを入れてくれていた彼の言葉に、 また泣けてきた。
”そう、 僕も再当選したら389番で、 チャレンジしたい。”
ゴール後、 身体を伸ばして芝生で寝そべっていたら、 取材を受けた。 色々と質問され、 それに応えた最後に、 ”また参加したいですか”って聞かれた。 ”もちろん”
121位 25:31:11
今回の成績です。
ラスト7マイルからスローダウンしたので、 そのまま進んでいれば、 24:20:00くらいだったでしょうか? そればかりはわかりません。
ゴール後、沢山のたらればがありましたが、僕はとても満足していました。
それはタイムにも刻まれたし、 旅の友シンヤさんと共有できた時間には、 嘘、 偽りはなく、 最大限の挑戦をギリギリまで戦ったんです。
そんな大きな財産を手に入れた素晴らしいレースでした。 本当にありがとうございました。
陽
Western State Endurance Run後に出演したポッドキャストが何個かあります。 ご興味があれば是非聞いてみてください。
Off Trail Talk_しんやさんの番組です。