鰻の香り:

鰻の香りを初めて認識したのは、東京のおじいちゃんのお葬式だった気がします。

それは、僕が幼稚園から小学校に上がる年の始めでした。
おじいちゃん馴染みの鰻屋さん。
彼のお葬式の後、親戚一同の集まりもそのお店の二階の座敷を借り切っていました。

お腹が空きすぎな僕は、サンキストのオレンジジュースまがいをここぞとばかりに飲み散らかした後、何が出てくるのかそして何でこんなに時間がかかるのかと母に文句を言っていた気がします。 

そこへとうとう、鰻のお膳が運ばれてきました。

そこまでと蓋を開けた際に沸き出してきた香ばしい醤油と甘みの香りの記憶はくっきりと今でも残っているのですが、実際にそこで食べた鰻の味が、ちっとも思い出せないんです。

匂いとその場の雰囲気は今でも覚えているのに。

黒いスーツを着た親戚一同が、おじいちゃんの思い出話をつまみにお酒を飲みながらおじいちゃんの大好物だった鰻を食べてるっていう場面。

そして座敷中に充満している鰻の香りとタバコのにおい。

おじいちゃんを支えていた、おばあちゃんが今年の1月頭に天国へいってしまいました。おじいちゃんが亡くなった後も僕がお家に伺うと鰻を食べに行こうと誘って連れていってくれました。そう、おばあちゃんも鰻が大好物でした。

最後の数年は介護施設にいましたが、2年前、僕らが訪問しに行った際、食欲がなくやせ細っていたおばあちゃんは、ボソッと鰻が食べたいってつぶやいていました。帰国をする際に、鰻を持っておばあちゃんのところへ行こうって思っていました。でもそんなこともできないままにおばあちゃんは、おじいちゃんのところへ向かってしまいました。 

次回、東京へ向かう際に、二人のお墓へ向かい、二人の好きだった鰻屋に行き、二人と一緒に鰻を食べてきたいと思います。30年以上前に嗅いだ香りを、よく噛みしめながら味と食感でつなぎ合わせてみたいと思います。

山田陽

AKIRA YAMADA 山田 陽

AKIRA YAMADA 山田 陽

フォトグラファー。 1998年よりNYをベースに活動。 近年は東京との往き来も多くなり、 雑誌、 カタログ、 広告の撮影に携わる。 次回の展示の製作開始。
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