Stephen Prina
アーティストやデザイナーって、 いつも同じ格好をしている気がする。 昔からそう思っていた。
ピカソのストライプのバスクシャツ、 ドナルド・ジャッドのワークシャツ、 ウォーホルのデニムの上下。 ファッションデザイナーなら、 クロード・モンタナのMA-1、 アルマーニのTシャツ。 スティーブ・ジョブスの黒のタートルネックも、 もはや制服のようなものだった。
気づけば、 自分もそうなっている。 意識したわけではないけれど、 なんとなく決まった服を着てしまう。 「もう少しオシャレしたら?」 とよく言われる。 特に弟がうるさい。 近所のおじさんみたいだと言われるので、 少しは気をつけるべきかもしれない。
——まあ、 でも今回の話は僕の服装のことではない。
長く服作りをしていると、 たまに少し変わった依頼が舞い込む。 レストランやオフィスのユニフォーム、 イベント用のエプロン、 顧客からのカスタムオーダーなど。 今回紹介するのは、 そんな 「個人からのカスタムオーダー」 の話だ。
きっかけは一本のメール。 送り主はなんと、 **MoMA(ニューヨーク近代美術館)** だった。内容はこうだ。 MoMA主催のアーティスト・パフォーマンスの衣装を、 うちで制作してほしいという。 依頼主はアーティストの スティーブン・プリナ (Stephen Prina)。 正直、 名前を聞いたときは知らなかったが、 調べてみると50年にわたって活動を続けるコンセプチュアル・アーティストで、 音楽をベースに多彩な表現を展開してきた人物だった。
話を聞くうちに、 驚くことがわかった。 彼は長年、 Engineered Garments、 特に Workaday のShop CoatとFatigue Pantsを、 まさに 「自分のユニフォーム」 として愛用してきたというのだ。 ハーバード大学で教鞭をとっていた頃、 地元ケンブリッジのショップ 「Drinkwater’s 」 でWorkadayに出会い、 それ以来ずっと愛用。 ニューヨークの店でも何着も購入してくれていたらしい。
今回のプロジェクトは、 彼の新しいパフォーマンス 『A Lick and a Promise』 (2025年秋スタート) で着用する衣装。 MoMA主催ということで、 正式な依頼もMoMAから届いた。 長年僕らの服を着てきただけあって、 ディテールへの理解が深く、 カスタムの要望も非常に明確。 しかもアーティストらしく、 彼自身の手描きドローイングが本当に見事だった。
春先から始まったプロジェクトは、 NY・LA を行き来しながらの採寸、 フィッティング、 サンプル製作の繰り返し。 生地や色の決定も含め、 時間はかかったが、 すべての工程が刺激的だった。 アーティスト特有のわがままを少し心配していたけれど、 彼はとても誠実で服にも造詣が深い。 むしろ彼の意見は的を射ていて、 対話のキャッチボールが本当に楽しかった。
完成した衣装は、 EGでも定番のユニフォームサージウールを使った ダークネイビーのスーツ。 黒のサテンラペルにパンツの側章、 そこにEGらしいバンドカラーのロングシャツとショートカラーの白シャツ。 仕上げは彼自身がパフォーマンス中にギターを弾くときに着るという、 黒のシフォンシャツ。 プリナのスタイルが凝縮されたラインナップになった。
現在、 このパフォーマンスと展示はすでに MoMA で始まっており、 12月までに約10回の公演が予定されている。 スケジュールは MoMAの公式サイトで確認できる。 初回の公演にはうちのスタッフも観に行ったが、 「最高だった」 と大絶賛だった。
僕が個人的に楽しみにしているのは、 11月13日の公演。 タイトルは 「Sonic Dan」。 察しのとおり、 Sonic Youth と Steely Dan から取られている。 詳しくはネタバレになるので控えるけれど、 音楽好きとしては見逃せない内容だ。 しかも聞くところによると、 オリビア・ニュートン=ジョンの曲まで登場するらしい。 これはもう、 近所のおじさんスタイルでは行けない。 ちゃんとお洒落して出かけようと思う。
それではまた次回。





