it’s just clothes, but it’s more than clothes
たまに若い頃に夢中になった洋服の事を思い出す。
先日イタリアの友人が送ってくれたリンクで思い出したのはこれ。
Willis & Geiger
http://www.vice.com/read/the-great-lost-expedition-brand-000212-v20n2
以前にこのコラムでも取り上げた事があるこのブランドは、僕がまだ20歳そこそこだった頃、当時働いていたお店で扱われていた商品。1902年の創業以来、一貫してエクスプローラー、いわゆる探検家、冒険家たちのための洋服を作ってきたメーカー。リンドバーグ、マッカーサー、アイゼンハワー、ヘミングウェイと有名顧客の名前は凄過ぎるほど。この辺の話は前回したので割愛するが、今回送られてきたリンクにあったのはこのW&Gが70年後半に潰れかかったときに会社を買い取り立ち直した張本人、バート・アヴェドン氏のインタビュー。
80年代の終わり、NYのミッドタウンにあったW&Gのショウルームで何度か彼と会った事がある。ショウルームは素晴らしいセットアップで、それまでのW&Gの歴史を物語る、有名人の写真や、手紙、当人の所有していたW&G製品や、サファリハンティングからの、大小動物の剥製がそこらじゅうに飾られていて、さながらミュージアムのようなところだった。その後、大手メールオーダー会社のランズエンドが買収して、全てはウィスコンシン州に移動になる。会った時に、彼はどういう経緯でW&Gをテイクオーバーすることになったかや、このブランドが何故こんなに素晴らしいのか、延々と話してくれて実に情熱的だった印象が強い。僕自身もその時に一気に引き込まれた記憶がある。そんな彼はこのインタビューによると、何と今年89歳である。
インタビューの中、面白いと思ったコメントがいくつかある。先ずは出だしから、インタビュアーの事を調べていて逆に質問してくるところが可笑しい。しかも、インタビュアーは、今まさにアメリカンクラシック、ヘリテージが盛り上がってるのだから、今こそW&G復活みたいな感じで意気込んでいるのに、バート氏は、非常に淡々と我々にはそうは見えないと、その盛り上がりはほんの一部の一握りの人たちによるものだと軽ーい感じで一蹴している。これに関しては僕も同じ意見だ。また、もう一つこの業界に長くいた彼ならではのコメントがぐっとくる。「素晴らしいブランドの名声、財産は、設立当初のメンバーによる企画、開発、経営の志、努力のたまもの。これが通常利益追求型の定型経営、つまり普通の会社になってしまったとたん、その輝きを失い、2世代、3世代、あるいは会社買収の後に自身の価値を見失ってしまう。それは彼らが起業元来の精神、情熱を引き継いでいないことに他ならないからだ。これは繰り返される業界のお決まりでもある。」
They no longer have the passion that was originally part of their DNA.
この言葉は結構きつい。
ソニーがもう昔のソニーでなくなったように、洋服のブランドだけに限らない言葉に思えてくる。
彼が何とかしてW&Gを残したいと頑張ったのは明白だが、その親会社であるランズエンド社の経営陣との交渉部分が面白い。何年計画のビジネスプランを元に見込み利益を割り出して交渉するのだけど、他の手持ち子会社だったらそれ以上の利益を一年で達成できると言われるあたりは正に現代のビジネスシステムを垣間みるようで正直がっかりする。商材という言葉さえあまり好きではないのだけど、何を扱ってビジネスするかっていうより、何か別の世界の話に聞こえる。ま、これが今の時代は正論なんだろうとは思うが、ちょっと寂しい気がする。W&Gは2000年を持って全てのビジネスが終了してしまう。さらにその後はどこにも売却しない事に決定され、酷い事に半永久的に凍結されることになってしまった。その理由もくだらないのだけど、この辺は当人の憶測なので何とも言えないですが。
インタビューの最後に最近になって当時の経営陣と再度話す機会があった時の描写がある。やはりW&Gをお払い箱にしたのは間違いだったろうと迫るバート氏に、その経営者はもしかしたらそうかも知れないが、結局は同じだと答える。そして、直後にランズエンド社は、さらに大手企業グループのシアーズの傘下におさまることになってしまった。この流れも非常に興味深いものがありますが、ここまでくるともう僕には何の話になるのか全くついていけない。ただもしかしたらこのおかげで冬眠から覚めるきっかけが生まれる可能性はあるのかも知れないと祈るのみ。
何だか他にも昔に夢中になって大好きだった洋服を思い出してきた。
次回はその辺の話をまた。