Cheaney
随分と長いことこのコラムを書いていませんでした。もう打ち切り終了というつもりでしたが、どうしても書きたくなる理由ができました。Cheaney Cairngormという靴がそれです。

Cheaney というのは英国靴の名門で、しばらくチャーチ社の傘下にあり、チャーチごとそのままプラダに買われて、最近(と言っても2009年)になって、何と、チャーチ社の創業家に買い戻されたというヒストリー。これだけでも中々の生い立ちだと思う。僕自身は昔に清水さんに聞くまでは、その存在を知らなかったけれど、2000年台初頭に、ロンドンのトレードショウにて Cheaney のストールを見る機会があった。それまでは個性的な高級ドレスシューズメーカーというイメージが僕の頭にあったのだけど、実際のストールにはドレスシューズ半分、カントリースタイルもまた半分の割合で置かれていた。
側に白衣を着た高齢の職人がいたので、興味本位でいろいろと聞いてみた。ドレスシューズはもちろんだけど、カントリーシューズも多かったので、どっちを作るのが大変なのだろうかと。この時は完全に、ドレスシューズという答えを期待していたのだけど、予想外にも絶対にカントリーシューズだとハッキリ。なかでも、CairngormというCheaney独特のスタイルは工程が多くてめちゃくちゃ大変なのだと。言われて見たこのモデルは、パッと見にはプレーントゥのスタイル、何が独特なのか大変なのか、さっぱりわからなかった。さらに聞いてみると、このCairngormというモデルは昔からの古いモデルで、特殊なヴェルションという製法で作られており、通常のグッドイヤーより手間がかかり、今現在もこの製法を続けている靴メーカーは非常に少ないとのことだった。

確かにウェルトにアッパーが乗っかっていて、見た目はステッチダウンのようだけど、しっかりグッドイヤーでもある。その割にはこのモデル、コバの張りが少なくて見た目は非常にスマート。 カントリーシューズらしくコマンドソールに、スコッチグレインのアッパーなのだけど、いわゆるコバが張ったゴツゴツの感じは微塵もない。ラストも古い時代のアーミーラストだそうで、ハナの形が少しスクエアぽくて面白い。シンプルなプレーントゥ型だけど、外羽根部分からヒールまでの流れが確かに独特。全体には幅のしっかりある歩きやすそうな柔らかいシェイプで目立たないけれど、なかなか見ないタイプのダービーシューズだと思った。
初めて聞いたヴェルションという製法にも引っ張られた。なぜこんな手間のかかる構造を維持するのか。これは全て防水のためだった。カントリーシューズ、ワークブーツ、ミリタリーブーツ、野外アクティビティのための靴は、常に浸水との戦いだったのだと思う。90年台にハマった、アメリカのラッセルモカシン社も、アウトドアスポーツシューズとして、その防水のための工夫が、トリプルヴァンプ製法だった。これはモカシン構造の中にもう一層のモカシンを作って二重構造で防水を図り、その上に一番外側にさらにマッドガードと言われるハーフサイズのアッパーをボトムだけに加えたのがトリプルヴァンプで、これがアメリカ的な防水構造の最終案のように思えていた。ほぼ逆転的な発想で、この英国靴Cheaneyが防水のためにアッパーとソール部分の外側、結合部分に注力して進化させたのがヴェルション。アメリカの中からに対して英国の外側から。この対比が個人的には非常に興味深かった。そしてどちらも、21世紀の現在、スニーカーまでもゴアテックスで簡単防水に変わっている時代に完全に逆行している。余計に手間がかかり、コストがかかり、効果は十分ではない。なのですが、僕個人的にはこういうのがたまらなく好きです。デジタル、クォーツ時代の今に、自動巻きのアナログ時計をするのと何か似てるような気がします。

前述の件があった直後、NYに戻ってすぐにCairngormのバーガンディを入手。思った通りでフィットが良い。自分の足に合ってるというのもあるが、めちゃくちゃ調子が良い。一気に気に入ってしまったのだけど、周りの誰からもコメントは無い。
スコッチグレインのバーガンディでプレーントゥ、コマンドソールってのは普通に見たら、もの凄い地味なセットアップだし、それぞれの違いに気が付く人は少ない。僕自身だけがその違いを意識できるのも個人的には満足している。通常は人から気づかれてなんぼだが、気づかれないのが心地良いなんてことも時にはある。そんな Cairngorm をさらに色違いのマホガニーを手に入れながら、この靴の魅力をもっと広めたいと思った。思ったのだけど、これが上手く行かなかった。
何度か別のトレードショウでも見る機会はあったのだけど、なかなか取り組みまでは進まない。ほぼ諦めかけた時に思いついたのは、日本の代理店 W社さん。今回はそのW社さんのおかげで時間はかかりましたが、遂に念願のCairngorm別注が実現しました。本当に感謝しています。サンプルが上がった時の感激は久しぶりにアドレナリンを感じました。今回の別注は、アッパーのシューレースステイ部分の片側だけに Dリングを配置して、右左の見え方の違いを狙った EGの得意技。間隔の詰まった5アイレットをDリングで置き換えるために、苦肉の策としてジグザグ配置したのだけど、結果それが逆にカッコ良い。
本来のアーミーシューズとしては、防水のためのヴェルション製法に対応するには、しっかりした水に強いアッパー素材が必要で、結局このスコッチグレイン以上のチョイスは見つからなかった。そして本当はソールもしっかり重い、コマンドソールが相性としてはベストなのだが、そこだけはどうしても軽いモーフレックスにしたかった。今現代の都市生活にベターなのは、やはり軽くてクッションの良い厚みがあっても安定しているこのソールがマストだと個人的には思っている。
昔からの職人による工夫と技術に、独自の解釈で今的に必要な要素をバランスを見て組み込んで行くのが EG流のアレンジ。パッと見にはどこが違うか分かりにくい、そんなところも自分たちらしくて気に入っているところです。ちなみにこのCairngormという名前はどこから来たんでしょうか。気になって調べてみたところ、スコットランド、ハイランドにこの名の山、山脈が存在するようです。 多分そこからとった名前なんだと思います。


CAIRNGORM EG ¥108,900円
発売日10月3日
実は、もう直ぐ発売になる、アメリカの靴メーカー、Allen EdmondsとEGのコラボシューズ。こちらも非常に良いあがりだったのですが、その靴の名前は、Adirondack Low Hiker。これも何とニューヨーク州にある山地名からで、靴名というのは現地の地名によるものが多いんだなと今更思っています。
さて次はその Allen Edmonds に関して書きたいと思ったのですが、実は何年か前にここで書いています。
この時は、まさかAllen Edmondsとコラボするとは思いもしなかったが、次はその辺からの続きを書きたいと思っています。
それではまた次回。
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