Xデーの大団円
準備に長い時間をかけたイベントの本番が続いて、この春は嬉しいてんてこ舞い。コロナ禍の影響で封印していた海外出張も解禁となり、NEPENTHESとしての活動もようやく正常運転に戻った。まだ記憶が確かなうちに、ニューメキシコ出張やSOUTH2WEST8札幌20周年のことなど書き残しておきたいところだけれども、まずはつい先週の話から。
「ENGINEERED GARMENTS」のバイヤー様向け展示会の後、コロナ前から恒例行事となっていた、大器さん(鈴木大器)との北海道釣行に出かけた。季節はちょうど「蝦夷梅雨」と呼ばれるレイニーシーズン。天気予報もあいにくの雨で気落ちしていたところ、なんと着いた頃から太陽が顔を出し、NYオフィスから同行していた健太(宮本健太)や様々なゲストと一緒に、青空の下でザブザブと気持ち良く川を歩くことができた。実は私、これまでの野外撮影でもほとんど雨に降られた事のない謂わゆる “晴 (れ)男”。こればかりはもう、お天道様にただ感謝。

滞在場所はNEPENTHESの新プロジェクト「花、太陽、雨」の拠点である旭川・美瑛。ロッジも併設しているので皆で寝食を共にできる。仕事以外の時間を一緒に過ごすことで、それぞれのバイブスがなんとなく調和されて、阿吽(あうん)の呼吸が生まれる。普段から意志の疎通は取れているとはいえ、東京とNYで物理的に離れて活動しているから、こういった時間はとても大切。
とりわけ今回は、滞在の初日がちょうど清水さん(清水慶三)の65回目の誕生日!と言うことで、前々からささやかなお祝いを準備していた。清水さんの年齢は私のちょうど一回り上。始めて会ったのは自分が大学生の時で、確か20歳とかだったので、清水さんは当然30代前半。その頃の自分は今の自分を全く想像していなかったけれど、清水さんはきっと、こうなろうと思っていた自分と環境に年々近づいているのではなかろうか。

本人にバレバレで、結局一緒に選んだ誕生日ケーキは、カヌレがとっても有名な美瑛のpâtisserie Torikoさん特製。清水さんは果物があまり得意じゃない、というのは仲間内では誰もが知るところ。でも、一番好きなケーキは「苺のショートケーキ」。この辺がトリッキー。大器さんの、キュウリは嫌いだけど「きゅうりのキューちゃん」は大好き、というのとは似たようでちょっと違う。何しろケーキはすごく美味しくて、ジンギスカンで胃袋パンパン状態でも、別腹にスッキリ収まってしまった。

誕生日といえばプレゼント。プレゼントを選んだり考えたりするのは割と好きで、アイデアもどんどん浮かんでくるのだけれど、相手が清水さんとなると話は別。長年のお付き合いで、好きなものも趣向もある程度は分かっているつもりだけれど、何かを選ぼうとすると、もう一人の自分が “それよりもっと良いそれに近いものをすでに持ってたりして?” と問いかけてくる。
清水さんの物へのコダワリには妥協が無い。大いに共感するところではあるが、本当にプライベートな部分まで、自分の周りには本当に好きなものしか置かないのだ。そんな姿を近くで見てきているから尚更選ぶのが難しい。これまでも毎年散々悩んできたけれど、今回はさすがにアイデアがもう出てこないというところまで来てしまった。
それでも刻一刻とXデーの7月1日は迫ってきて、いよいよ一週間前を切ったところで「!ッ」と閃いた。花だ。祝いの席を華やかに彩るような花。数日のあいだ花火のようにそこを照らしてくれる花。そのくらいが相応しいような気がした。二ヶ月前、残雪の槍ヶ岳に登り、その帰りに上高地の徳沢園に泊まった。脳裏に浮かんできたのは、そこに飾られていた花だった。大輪の白百合と真紅の薔薇で作られた見事なアレンジメントフラワーで、小説『氷壁』にも登場する歴史ある山小屋(今の姿は少し整い過ぎている気もするけれど)のなかで、一際存在感を放っていた。大胆で潔くて、抜群にかっこよかった。
さっそく美瑛の花屋さんを探して、なんとかそのイメージで段取りを組んだ。当日、隙をみて抜け出し、車を走らせて花をピックアップ。慌ててロッジに戻ると、たまたま駐車場に清水さんがいて、そんな時に限ってなかなかその場を離れない。。サイズが大き過ぎたこともあって、結局なんとなく本人にバレバレの搬入となり、予定調和的なサプライズとなってしまったが、無事ダイニングテーブルに鎮座した。

無骨でシンプルな空間ほど花は良いもので、滞在中のディナーで見る度に我ながら素晴らしいアイデアだったと自己満足に浸った、と同時に実は心残りも。写真を見ると分かるのだけれど、肝心の白百合が滞在中に咲いてくれなかったのだ。これはとっても残念だった。前日までの現地の低気温が原因で、予想していなかった事態にびっくり。やっぱり本州とは違う北海道。日々是勉強なり。今頃、美瑛で要さん(永岡要)が満開の白百合を楽しんでくれていると思います。
そして、もう一つびっくりしたのがこちら。清水さんが釣り上げたレインボートラウト。両手で抱えきれない程の体高、筋肉質で傷ひとつないで完璧な巨体。これぞ北海道の鱒。こういう魚が一番強い。しかもこんな魚をよりによって、皆の見ている前で自分の誕生日に、テンカラで釣り上げてしまうんだから、こちとらお手上げです。これ以上の誕生日プレゼントなんてありません。
魚がネットに入ったのを見た瞬間、見ていた全員が多幸感に包まれ大団円。全てが完璧に整った黄昏時。 痺れた。

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