グランドエスケープ

友人との会話がきっかけだった。下北沢の話になって、忽然と茶色いサッシ戸が頭に浮かんだ。その脇には提灯が赤く灯り、入るとL字カウンター。壁には煙色になった短冊メニューが貼られ、額に収まったボクサーがファイティングポーズをとってこちらを見ている。中ジョッキが凍らせてある奥の冷蔵庫の上には常連客のブリーフケースが並ぶ。鮮烈に蘇ったそのビジュアルは、まさしく長年通った我が心の故郷。打ち合わせ、反省会、二次会、決起集会、春夏秋冬なにかにつけて集まり、長きに渡って良い夜を過ごしてきた、下北沢のある焼き鳥屋さんだった。

稚内、羅臼、穂高、佐世保、タオス、アンカレッジ、マンハッタン。。近い将来の逃避行を夢見て、候補地はたくさん想定してあったのだけど、下北沢が彗星のように現れて、ダントツの一位に躍り出た。混じる訳でもなく、それぞれの客がざわざわと。要するに、この閉塞感のなか、結局自分が一番強烈に欲したのは、そんな煙のなかの心地良い連帯感なのだった。今になって改めて、どれだけ居酒屋が精神的な拠り所になっていたのかを知り、今こそ恩返しの時!と思うなかでの時短営業要請。飲食業の方達が置かれている状況はあまりに厳しい。

と言っても、宣言が解除になったとしても、残念ながらその焼き鳥屋さんに恩返しできる機会はもうない。実は数年前すでに、その焼き鳥屋さんは店を畳んでしまっているのだ。つまり、もう存在しない店のことを思い出し、二度と行くことができないことに気付いて、コロナのせいで余計に悶々としているというのが今の状態。所詮叶わぬ夢。未練は捨てて、別の候補地の地図を広げよう。

閑話休題、コロナを持ち越した新しい年がついに始まった。ロンドンはロックダウン、ニューヨークはウィルスに加えて社会的分断の危機、日本は各地で緊急事態宣言が発令と、日々細々とした対応に追われる年明け。ネットは不穏なニュースに溢れ、日常生活に強いられる変化もネガティブ、輝かしい未来が見えているかというと疑わしい。 怖くないわけない、でも止まんない。 NEPENTHESとしても進化に向けて邁進する一年。様々な新しいプロジェクトが立ち上がり前を向いている。各地のスタッフと話すと皆元気。それが一番。

桜が咲く頃までにたくさんのスペシャルリリースを用意していますが、まずは待ちに待った〈NEEDLES〉と〈Master & Dynamic〉のコラボレーションアイテムが日本に到着。個人的にもとても好みの音質。ハイクオリティです。ONLINE STORE限定で今月中にリリースされます。詳細はオフィシャルサイトの続報をお待ちください。

Shoyorollから新しいGiも届いて嬉しい。スパーリングのある日常が懐かしい。遠ざかっていたマットに復帰する良い理由ができた。グリップ力も落ちて脚も効かず何もできなそう。どんだけ身体がなまっているのか、想像するだけで怖い。いや、怖くないわけない。

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TOKURO AOYAGI 青柳 徳郎

NEPENTHES ディレクター。1970年生まれ。東京都出身。