#77

友人の松下沙花ちゃんは、自分の絵の端に必ずサニーサイドアップを小さく描くと話してくれた。

「これはプラスマイナスゼロにしてくれるの。私の絵は暗いから」

少し前、高円寺で行われた沙花ちゃんの個展『不在』。
彼女は「モノプリント」という手法を用いる。版に直接インクや油絵の具などを用いて描画して、その上に紙を乗せて圧力をかける。そうすることでイメージを紙に転写する版画の技法だ。
SAKA MATSUSHITA:http://www.sakamatsushita.com/

沙花ちゃんが描くのは部屋のある部分。
それは隅っこだったりベッドサイドだったり、リビングだったり。
そこに人は描かれていない。人の暮らしがある部屋、かつて暮らしがあった部屋、人の痕跡が残る部屋には記憶がある。沙花ちゃんが描いたのは記憶を持った部屋だった。

主人のいない部屋は少し寂しそうで、それぞれがとどめられた記憶をしたためた色をもっていた。

カウンターに立てかけられた小さな目玉焼きの絵。
「サニーサイドアップはね、だからお守りみたいなものなの」
僕はサニーサイドアップの絵を選んで、持ち帰ることにした。

サニーサイドアップ。
片面だけ焼いた目玉焼き。
おひさま焼き。

孤独も、悲しいも、寂しいも切ないも、悔しいも
それらはみんなサニーサイドアップの反対側にあって。
だからサニーサイドアップは可愛くてホッとするし、いつもやさしいんだよな。

暗闇を探して歩きなさい。
ふらりと入った新宿のバーのママに言われた言葉を思い出す。

周囲に流されることなく、己を見つめて考える。
寂しくなったり打ちひしがれたり孤独を感じることもあるだろう。
いろんなことを言われて凹んじゃうこともあるだろう。

サニーサイドアップの反対側をじっくり焼こう。
サニーサイドアップみたいなおじさんになろう。

今年もこのコラムを読んでくれたみなさま、ありがとうございます。
2018年も、たくさん笑ってうれしいがいっぱいの1年になりますように。

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A.D.O 亜童

A.D.O 亜童

フリーランスの編集者、ライター、ディレクターとして雑誌やWEB、広告、映像のディレクションをつとめる。昨年、自身のクリエイティブ・カンパニー「E inc.」を設立。新たなコミュニケーションを模索中。人生一度きり、の思いを掲げ、自らのお尻を叩きながら前へ前へ。鹿児島出身、目黒区在住。
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