#70

本屋さんの偉大さよ。
と言うより「本屋さんの本棚」の偉大さよ。

自分にとって本屋さんにいく行為は
自分自身を覗きにいくことだ。
今現在の自分の頭と心を覗きにいくことだ。

欲しい本があるわけじゃないのだ。
いや、本屋さんにいくときは
欲しい本があってはならないのだ。
ただただぼんやりと、本棚に並ぶ背表紙を眺めながら
お店の中をぐるぐるして手に取ってしまった本。
それが今の自分なのだ。

すごい本屋さんの本棚はとにかく雄弁だ。
わかりました、ちょっと待ってそっちにも手を伸ばすから
それぐらい雄弁に語りかけてくる。
物言わぬ店主をがっちりと代弁している。

京都にある「三月書房」は
まさにそんな本屋さんだった。
小さなお店なのに、本棚をもう何周したのかわからないほど。
数時間ステイして、大量の本を抱えて自転車に乗った気がする。

本屋さんにいくたびに数冊買う。
ジャンルもまったくバラバラ。
小説、随筆、ビジネス書、料理、時に写真集、時に図録。
そうして買った本たちを並べて、やっと今の自分がわかる。

だからどんどん溜まる。まだ読んでない本がたくさんある。
ちょっと焦るけど、読まなくてもいいのかなあ、と思う自分もいる。
選ぶ行為ができただけで、淀んでた頭と心の視界が明るくなるから。

本屋さんがものすごい勢いで消滅しているのは確かに嘆かわしいんだけど
いい本屋さんはしっかりと残っていくと思う。
そして欲しいと決まっている本は、アマゾンでポチればいい。

デジタルともアナログともうまく付き合っていけばいい。
なにが便利で、なにが大切かは、実は自分が一番知ってるはずだから。

大いに怒っていたニール・ヤングだってSpotifyにやってきた。
Spotifyで『Harvest』や『After The Gold Rush』をさんざん聴いて
僕はあなたのレコードとカセットテープを買うよ。

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A.D.O 亜童

A.D.O 亜童

フリーランスの編集者、ライター、ディレクターとして雑誌やWEB、広告、映像のディレクションをつとめる。昨年、自身のクリエイティブ・カンパニー「E inc.」を設立。新たなコミュニケーションを模索中。人生一度きり、の思いを掲げ、自らのお尻を叩きながら前へ前へ。鹿児島出身、目黒区在住。
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