Louis Boston
新年に入って直ぐのニュースは、あのボストンの銘店、ルイスが今年7月で閉店すると言う事。
もう何年も行っていないこの店は、僕にとっては特別の特別の店でした。
でしたというのは、もう随分前に元のオーナーが引退して、娘が引き継いだあたりからルイスは、もう僕の思うルイスではなくなってしまったから。
自分が思う世界で一番カッコ良いと思う店はどこですか。
いろんな意見があると思う。ミラノのコルソコモ、これは僕の良く知ってる友人がずっと好きだった。パリのコレット、NYのバーニーズ、バーグドルフ・グッドマンなどなど。
個人的には上記したお店はたしかに素晴らしい店だと思う。
だけど何だか、昔に見た、憧れていたお店とはまたちょっと違う気がしてしまう。
それはきっと歳を取って昔の思い出を美化してるだけなんだろうか。バナナリパブリック、バシュフォード、アットイース、ケーブルカークロージャース、バートンズ、シャリヴァリ。たくさんの素晴らしい店を見てきたけれど、やっぱり特に心に残っているのはボストンのルイス。初めて見たまだボイルストン通りにあった頃から、大好きだった。その後あの有名な自然史博物館跡に移転してからも、たまたまボストンに住む事になったせいもあり、毎週のように通っていたもんだ。
ルチアーノ・バルベラを送り出したお店。初めてジル・サンダーを見たのもルイスだった。アメリカのクラシックなジェントルマンショップそのものだった。扱う商品、ウィンドウ、店員全てがカッコ良く見えて、重厚なたたずまいを無視して、お金のない僕は買物もしないのに、毎日MA1を着ながらしょっちゅう出かけて行っていた。
ルイスは何がカッコ良かったのか。
それは前オーナーの故マレー・パールスタイン氏が全てだと思う。昔、店の中で見かけたちょっと威圧感のあるおっさんの事で、何回か店の人間に紹介されて挨拶くらいはしたけれど、近寄り難いオーラを持った人だった。仲良くなった店のスタッフからも何度もその名物オーナーの話を聞かされた。店の内装から、方針、商品の買付け全てが彼の手に寄るものだった。いわゆるワンマンオーナーの典型。しかし、側近も素晴らしかった。日本で良く言われる、カリスマ的で、側近はもちろん、業界内にも、お客さんにもかなりコアなフォロワーがもの凄い数で存在していた。パールスタイン氏は、そのエキセントリックさでも有名ではあったけれど、ヴィジョナリーであり、何よりもパイオニアであったし、オリジナルだった。だからこそルイスは他のどこよりもカッコ良かったんだと思う。
彼の逸話で一番好きなのは、長年ルイスで働いた経験のあるデザイナー、ジョセフ・アブードの談話。
商品の買付けで、展示会やメーカーを廻っている時に彼が言った言葉は、
” If you believe in something, buy it like you believe in it “
それが例え無名のデザイナーでも、メーカーでも、何か良いと思う、自分が感じるものがあれば、感じたままに買付けするべきだと言う事なんだと思う。いかにもオールドスクールの言葉だ。今の時代、過去の実績や、世の中の情勢や、トレンド、お店の売上など、数字を見ることができるバイヤーが確かに優秀だと思う。 だけど、それでは昔のルイスみたいな店は作れない。リスクは大きいかもしれないけれど、それ以上に誰も見たことのないものを見つけたい、何か新しい物を作り上げたいという気持はやはりどこか心のどこかに置いておきたいとあらためて彼の言葉を思い出した。
自分の思う世界で一番カッコ良いお店はどこですか。
いつか僕らの店の名前がリストアップされるように本気で頑張っていきたいと思います。
ではまた次回。