#38
東京の空は小さい、そう思った。
よっぽどのことがない限り
ばあちゃんには話しかけないようにと決めている。
どうにもこうにも、な気持ちになり
しばらく歩くことにした。
ただただ空を見上げながら、歩くことにした。
ばあちゃんに話をするために。
いろんな思いを空に飛ばしてから
いつものお店に入った。
「亜童さん、この人も見えるんですよー」
たまたまそのお店に居合わせた友達。
その友達は、オーラというか
その人がまとっている色が見える。
色を見ている彼女の眼差しはとても不思議で
自分を見つめているようで、見つめていない。
眼差しのモードが変わるんだそうだ。
その友達が連れてきた方と言葉をかわした。
「初めて会った人にこんなこと言うのも
気持ち悪がられるかもしれないんだけど。。
亜童さんがお店に入ってきたときすぐに感じたんです。
ずいぶん前に出会っている人。。おばあちゃん?かな?」
不思議なんだけど、驚かなかったのだ。
自分は初めて会ったその人に
ばあちゃんの話をした。
自分が2歳のときに亡くなってしまったこと。
よっぽどのことがない限り、ばあちゃんに話しかけないようにしていること。
それが今日で、このお店にくる前に空を見ながら
話をしてきたよ、ってこと。
自分は、とてもばあちゃんに愛されていたこと。
逆に初めて会ったその人がびっくりしていた。
「ばあちゃんはなんか言ってた?」
と聞いてみた。
「たぶん亜童さんがお店に入ってきたときに一緒にいて
だいじょうぶだよ、って亜童に伝えて、と言ってるような感じでした」
涙をこらえるのがわりと大変だった。
「へえ、そっかそっか」
こみ上げてくる涙とへんてこな味と一緒に
ビールを流し込んだ。
この空はずっと繋がっている。
小さくても大きくても、高くても低くても。
ずっとずっと繋がっている。
ばあちゃん、ありがとうね。
おれは頑張る。