#27
たいせつな友だちが死んでしまった。
酒気帯び運転の車にはねられて死んでしまった。
毎日夜遅くまで働いてさ
子供と奥さん大好きでさ
あと少しで家族が待ってる家だったのに。
青信号を渡っていただけなのに。
寒い寒い冬の夜中に
たった独りで
酒気帯び運転の車にはねられて死んでしまった。
朝から呆然として
仕事なんか当然手につかず
涙まみれで必死に彼と自分の共通の友人に
彼の死を知らせる連絡をするのが精一杯だった。
ほんの数日前、彼から電話があった。
「亜童、THE DAYさ、ライター探してたやろ?
わりと頑張ってるやつおるから、会ってみない?」
いつだって彼は気にかけてくれてた。
ほんとにいろんな人を気にかけていた。
会ってるときはいつも友達のはなし。
あいつ元気かな、そういえばあいつさ。
いつだって彼は人のことを気にかけていた。
お通夜には600人近くの人たちが駆けつけたらしい。
自分はもう泣き崩れてしまいそうだったから
他の人たちと話せるわけもなく会場の上の部屋にいたんだけど。
彼が気にかけていた人たちがたくさんやってきた。
彼のことを気にかけていた人たちがたくさんやってきたんだ。
なんで彼だったんだろうか。
彼じゃなくていいじゃないか。
非難を承知で言うが
死ねばいいやつなんて他にもいるじゃないか。
少なくとも、絶対彼じゃなくてよかったじゃないか。
神さまは何が言いたいんだ?
こんなにいつだって人のことを気にかけてやさしかったやつの命がなくなって
神さまは何が言いたいんだ?
そこにメッセージなんかないだろ。
お通夜の会場には朝までいた。
彼が眠ってる棺の横にこしかけて
信じられないぐらい冷たいまるっこいほっぺたを触りながら
酒を飲んでいた。
もう寂しくて寂しくて涙が止まらなかった。
陽が昇るころふと思うことがあった。
たぶん彼も気づいてなかった。自分が死んだことに。
きっと近くにフラフラといるはずだ。
でもこうして一晩中僕らが嗚咽している姿を傍で眺めて
彼も理解したころなんじゃないかって。
ふっと心が少し軽くなって
ぼくは撮影に向かうことにした。
葬儀には出られなかった。
彼の体が焼かれるとき、友人がそっとメールをくれた。
「いまだよ」
撮影現場から離れて外に出て
まっ青で塵ひとつない冬空に小さく手を合わせた。
相変わらず涙が止まらなかったけど
不思議と大きな悲しみとは少し違う感じがした。
体はいなくなっても、俺たちは彼をずっと想ってる。
彼が俺たちをいつも想ってくれたように。
あんまりにも空が奇麗だったから、天国行くのに迷うんじゃないかってぐらい
素晴らしい晴れた日だった。
ブー。
おれたちはいつだってお前のこと話すんだからね。
これからもいつだってお前のこと話すんだからね。
「亜童、コラム書いたん?」
いつもこのコラムを読んでくれていたみたいだから
ここに書いとくよブーのこと。
どうかどうか、ゆっくりね。
安らかにね。
いつもありがとうね。
本間良二さんのコラムから、ブーの写真をお借りました。