イギリスのターナープライズ受賞者アーティスト、グレイソンペリーのエキシビションが大英博物館で行われています。
最初にターナープライズの説明をしておきます。この賞は50歳以下の英国人、英国に住むアーティストに毎年贈られる賞で、19世紀のイギリスのペインター、J.M.W.ターナーの名前にちなんだこの賞は、どんなアーティストにとっても非常に名誉ある賞として知られています。イギリスの国立美術館テートが毎年春に4人のアーティストをノミネートし、同年の秋から冬にかけてロンドンのテートブリテンにてノミネート者の作品が展示、そしてターナー賞受賞者の発表および受賞式典が行われます。毎年この式典はテレビで放送されるくらい大きな式典で、2001年にはマドンナが受賞発表をしたことでも有名です。
グレイソンペリーは2003年のターナー賞受賞者。この年のノミネート者のなかにはあの有名なチャップマンブラサーズもいました。その時にターナー賞を受賞した作品は、彼のお得意分野の陶芸。今回も彼の壺がいくつか展示してありました。
トランヴェスタイトとしても有名なグレイソン。ターナー賞の授賞式の時も、可愛らしい少女の格好とバッチリメイクでの登場。次の日の新聞には「女装陶芸家がターナー賞を受賞!」という見出しで大ニュースなりました。 そしてもう一つ、彼のアートと彼の人生に欠かせないキャラクターが、テディーベアのアラン。アランは彼の全ての作品に登場するトレードマークです。 グレイソンの実の父親は4歳のころに家を出ていき、グレイソンは義理のお父さんと住む生活になりましたが、義理のお父さんからの虐待を受け、結局その後は実の父親のところに住むようになります。彼がこのメルヘンの世界を作り出したのはこの頃でした。複雑な家庭環境や、現実から逃れるために、家の小屋にテディーベアのアランと籠るようになります。アランは彼のお父さん役で、自分の理想の世界で生活をしたそうです。そして、彼は10代の頃から女装の楽しさを覚え、家から女装をして外に遊びにいくようになりました。しかし今度は女装をするグレイソンを知った義理の母親からの冷たい目と、近所の人からの非難で、家を追い出されてしまいます。このような複雑な少年、青年時代を送った彼。そのころの体験、親からの批判や、性に対しての考え方や、世間に対する考え方や疑問などの、たくさんのメッセージが彼の作品にそのまま込められています。
彼の壷は伝統的な壷の形体と伝統的な陶芸方法で作られているのですが、デザインはいろんなイメージや、イラストレーション、たくさんのモチーフで装飾されています。そのモチーフはイギリスを象徴するものばかり。例えば、ユニオンジャック、イギリスの戦闘機スピットフィアー、ビッグベン、ダブルデッカー、どんぐり(イギリスのオークの木)、王冠、などなど。とってもイングリッシュ。シルバーやゴールドでコーティングしてある一見とっても豪華にみえる壷も、なかには幼児虐待をテーマにしたイラストやメッセージが装飾されているものがあったりと、暗いイメージものもたくさんあります。良く観察をしない限り、彼の壷はほんとうに可愛らしくてポップで豪華な壷にしか観えないのがまた良い所かもしれません。残念ながら陶芸技術については深く知らないので、あまり語る事は出来ないのですが、 イメージを壷に描写する方法や、コーティングの技術も、陶芸家として素晴らしいものだそうです。
さて現在、大英博物館で行われている展示会は「Tomb of the Unknown Craftsman」といって、彼の作品を含め、彼がインスピレーションを受けた作品を世界中から集めてそれらをすべて公開したものです。その作品は歴史的なものもあれば、日本のハローキティーちゃんや、暴走族など、現代的なものもたくさんありました。 写真にあるこの可愛いとしかいえない、ピンクのバイクは日本の暴走族からインスピレーションをうけて製作した作品だそうです。暴走族の格好良さと彼のメルヘンが合体したバイクで、実際にテディーベアのアランを連れてドイツまでのロードトリップをしたそうです。バイクの後ろにはアラン用の可愛いケースが取り付けられていて、その中にはアラン用の椅子もちゃんとありました。この時の衣装というか、バイク用の革のジャケットとズボンも彼のお手製。小さい子供がお絵描きで描く、王子様のような衣装、とでもいったら良いのでしょうか、とってもメルヘンチックなコスチューム。
エキシビションでは、陶芸だけではなく、衣装、バイク、エンブロイダリーやイラストなど、多才なグレイソンのたくさんの作品をみることができてとっても満足。そして、会場を出る瞬間に上の階のレストランでグレイソンペリーのスペシャルアフタヌーンティーがあると書いてあったのを発見。これは絶対に頂かないといけないなと、楽しみにしてレストランに行ってみたら、予約が必要だとあっさり断られてがっかり。これだけ長くロンドンに住んでいて大英博物館をじっくり観た事が無い私は、そこで、ミイラだけは観ておいた方が良いかなと思い(これも密かに楽しみにしていたのですが)、大急ぎで一階にあったエジプトゾーンに行って歩き回るがミイラがない。友達の車が路上駐車で、グレイソンを観てアフタヌーンティーの残念なお知らせを知らされてから、あと15分しか時間がなかったので、焦って係の人にきくとなんと3階だという。しかも奥の方...大英博物館の広さに参ったところでタイムアウト。結局ミイラは観る事ができませんでした。
宮迫 亜矢 AYA MIYASAKO
1998年渡英。
ロンドンを拠点にフットワーク軽く世界を飛び回り、ホーム&
アクセサリー
デザインの分野でディレクター、コーディネーターとして活躍中。京都出身。