ロンドンの9月はファッションウィークとデザインフェスティバルが同じ週に行われ、街中が最も活気に溢れる時期です。
ロンドンデザインフェスティバルとはプロダクトデザイン、建築、インテリアデザイン、家具などのたくさんの展示会やエキシビションが、ロンドンの至る所で行われるフェスティバルです。主な展示会は100%Design、ヤングデザイナーが集まる展示会TENTですが、今年はヴィクトリア&アルバートミュージアムもエキシビション会場として選ばれました。そして会場の入り口には、高さ12メートルもあるティンバーでできた大きなプロジェクト「Timber Wave」が出現し、エレガントで豪華な建物の雰囲気をがらっと変えていました。
この「Timber Wave」は、ロンドンを拠点とする建築家のAL_Aとエンジニアリング会社のArupとのコラボレーションで制作され、デジタルツールの3Dモデリング、精密なエンジニアリング、ハンドドローイングそしてハンドクラフトが一つになった作品です。曲線の部分には強いオークが使用され、その素材はわざわざアメリカからレッドオークを輸入。イギリスのリンコルンシャーでそれぞれのパーツが製作され、現地で組み立てられました。ライティングまでちゃんとデザインされていて、夜は昼間の雰囲気と全く変わってかなりドラマティックです。ちなみにこのプロジェクトは10月15日までディスプレイされています。
デザインフェスティバルとはちょっと離れるのですが、このヴィクトリア&アルバートミュージアムでちょっとした発見がありました。まず美術館の歴史は1851年までさかのぼります。ロケーションは何回かかわり、最終的に今の場所になったのは1857年です。その頃はまだ、サウスケンジントンミュージアムだったのですが、1899年より今のヴィクトリア&アルバートミュージアムになりました。建物は外見も内装も素晴らしいもので、何回観ても飽きることなく奇麗だなと思える建築です。今回の新しい発見は、建物向かって左側、エキシビションロードに面している壁なのですが、壁の至る所が陥没しているのです。この壁以外、建物はとっても奇麗なので、どうしてこの壁だけがこんなにもぼこぼこしているのだろうと思ったら、なんとそれは第二次世界大戦時の空襲によって受けたダメージをそのまま残していたのでした。何度も歩いている道なのに、今まで全く気が付きませんでした。
余談でしたが、ロンドン市外も当時相当の戦争の被害を受けたということが、良くわかります。
さて、デザインフェスティバルに話しを戻します。続いて注目した作品は、スローンストリートにオープンした新しいFENDIのショップです。そのグランドオープンとデザインフェスティバルを記念したもので、ショップ自体のデザインはPeter Marinoによるものなんですが、ウィンドウディスプレイとショップディスプレイをなんとロイヤルカレッジオブアートのプロダクトデザイン科の学生に任せようという企画です。
コンセプトは「Something Spectacular」、つまり " 何かとっても凄いもの "。そう、なんでも良いから壮観なものだったら、好きなようにしていいと、これがコンセプト。ほんとうにそれだけを伝えて、学生達に全てを託したそうです。スローンストリートといえば、シャネル、グッチ、ルイヴィトン、プラダなどなど一流のブランドのショップが並ぶ通りで有名です。イギリスのメディアではそんな有名な通りにグランドオープンする大切なお店だというのにも関わらず、プロではなく学生に任せるなんて凄いチャレンジだ、とかギャンブルだとか、結構、話題にもなったくらいです。確かにそれも一理あると思ったけど、ロイヤルカレッジオブアートは簡単に入学できない一流の大学で、優秀な生徒がたくさん集まる学校だから、私的には何かとってもすごい事をしてくれるんじゃないかと勝手に想像をして期待をしていました。
この学生チームを率いるのは、もちろん同じカレッジ卒業のSimon Hasan。彼もイギリスのプロダクトデザイナーで、今ではこういったお店の内装デザインも手掛けています。さて、彼が率いる学生チームがデザインは、コンセプトは先ほど行った通り「Something Spectacular」。作品に使用するマテリアルは、FendiのSellerialeatherの切れ端や、いらなくなった素材やパーツ。 まず、バッグと共にディスプレイしてあったオブジェは「フェンディの解剖」という題名で、Selleria bagの使用不可能になったハンドルや革の切れ端で、5人の学生達によって製作されたものでした。そして、ショーウィンドウの左側は、Lola Lelyによる歯車、鞄のメタルのパーツ、革の切れ端でつくられた機械。彼女のインスピレーションは、イタリアのアートムーブメント「Futurism」。カラフルな革のストラップはこの機械の動きによって柄が常に変化します。この革と機械のメカニズムがミックスされた一つのオブジェによって、クラフトマンシップの歴史と、現代技術の性能の二つの要素を表現しています。右側のショーウィンドウにはMeret Probstによる、「白いキャンバスからの始まり」。フェンディの真っ白の鞄が白いキャンバスの下に飾られており、キャンバスの上からゆっくりと、色とりどりの染色液が落ちるようになっています。ナチュラルビューティーである「白」が、たくさんの色、柄、そして手法で、無限の美しさを持つ可能性を表現する試み。
正直に言うと、一見してFendiのブランドイメージとは全く異なってるように感じたし、私がイメージしていた " 何かとっても凄いもの "でもありませんでした。 私がイメージしていた「Something Spectacular」は、言葉の響きからも何かすごく豪華で大きなもの。一流ファッションブランドの世界の「Spectacular」= 外見を豪華で華やかに飾るような表現を期待していました。
でも立ち止まって考えると、プロダクトデザインの世界では、この「Spectacular / 凄い」という形容詞は見た目の豪華さだけに使われるものではないはず。機密さや繊細さ、機能性などが、見た目のデザイン性と同等以上の価値を持つ世界です。そうやって、ふと目線を変えて観てみたら、このプロダクトデザイン科の学生達が製作した表現のなかに「Spectacular」なディテールを至るところに見つけることができ、とっても素敵な作品に見えてきました。
宮迫 亜矢 AYA MIYASAKO
1998年渡英。
ロンドンを拠点にフットワーク軽く世界を飛び回り、ホーム&
アクセサリー
デザインの分野でディレクター、コーディネーターとして活躍中。京都出身。