イギリスを代表する大物アーティスト、ルシアンフロイドが先日亡くなった。私が好きなアーティストの一人です。彼の祖父は、あの有名な心理学者フロイト。ドイツのベルリンに生まれ、11歳のときにナチズムから逃れるために、家族と共にイギリスに移り住みました。彼の絵は家族や友人などの一般人をモデルにしたヌードのポートレイト、肖像画が主ですが、フランシスベーコンや、ケイトモス、エリザベス女王などをモデルにした作品も有名です。
リアリズム主義の彼の絵は、肌の色、陰、シミ、皺を美化することなく、そのままの姿、形、色がキャンバスに描かれています。代表的な作品である2001年に発表されたエリザベス女王の肖像画は、メディアやアート評論家から色んな意見が飛び交いました。「トイレに飾る程度の絵だ」「王室が悪印象になる」「王室で飼われている、コーギーが病気になったような絵」「フロイドはロンドン塔の監獄に入るべきだ」などなど、かなり批判的な意見も多かったのと同時に、「過去150年の王室の肖像画で一番のものだ」「肖像画というのは、表面だけではなく、皮膚の下に隠れているものすべてを表現して本当の肖像がといえる。それを表現できるのはフロイドだけだ」などと、絶賛した評論家も多かったそうです。
彼の絵は決して「一般的な美」を求める人達に好まれる絵ではない、ということは確かです。フランシスベーコンや、エゴンシーレなどといったアーティストと同じカテゴリーに入るでしょう。でも私は逆にそういう絵の方が好きだ。このエリザベス女王の絵も素晴らしいと思った。すごく正直で、本当の女王が描写されてる。2000年の時点で、彼女は74歳。48何年間女王として勤めてきたプライドが、一つ一つの皺に美しく表現されていると思った。ケイト・モスの絵も同様だ。20世紀の美の象徴ともいえる彼女をモデルにしたポートレイトも、一般的な美とは違う美しさがある。それがルシアンの絵で、だからこそ彼の絵は認められ、価値のある作品なのだ。
例えば、もし私がエリザべス女王のポートレイトを女王の前で描くことになったとしたら、フォトショップを使ったように、皺を減らして、顔色も良くして、エリザベス女王が喜ぶような肖像画を描くだろう笑。何をどう美しいと思うかは人それぞれだし、滑稽なものも見方を変えれば美しくなることがあり、滑稽なものほど美しいと思う人もいる。 何も隠さないことがルシアンの美だったのだと思う。その通りだと思う。
以前に新聞か雑誌で、彼の私生活について書かれた記事を読んだことがる。お金のことは一切気にすることない生活。常に彼のまわりには何人かの女性がいたくらい、女性好きだったそうだ。朝と昼は自宅近くにあるカフェで友達と食事をして、夕食はピカデリーサーカスにあるWolseleyというレストランで、ほぼ毎日外食という生活だったそう。ちなみに彼が亡くなった次の日の夜は、Wolseleyのウェイター達が、彼がいつも座っていたテーブルに黒のテーブルクロスを掛け、一本のキャンドルを灯し、みんなで彼の冥福を祈ったそうです。なんて素適な話だ。80歳を超えても、バーで夜中の3時まで飲んでいたとか。とってもアーティストらしい私生活だ。ただの遊び好きでろくでもない人間のように聞こえるかもしれないけど、
たくさんの作品を残し、画家としての人生を謳歌した人です。その証拠に、彼は亡くなる直前まで絵を書き続けていたそうです。最後のモデルとなったのは、20年以上もルシアンのアシスタントとして働いたデイビッド。でも、その絵は惜しくも未完成のままになってしまったそうです。
宮迫 亜矢 AYA MIYASAKO
1998年渡英。
ロンドンを拠点にフットワーク軽く世界を飛び回り、ホーム&
アクセサリー
デザインの分野でディレクター、コーディネーターとして活躍中。京都出身。