おまえが俺を認識した頃には、 俺はそこを立ち去ってる
5月某日、 田ちゃんことラッパーの田我流と北海道美瑛へ。 釣り師としても知られる彼に、 北の大地でSOUTH2 WEST8チームと一緒に最高のテンカラ体験をしてもらうはずが、 なんと連日の大増水。 元々ルアーフィッシャーとして北海道には何度も訪れている田ちゃんでも、 こればっかりはどうにもならない。 自分たちが知り得るすべての河川を回りまくったけれど、 そのほとんどがアマゾン川のような濁流で、 竿を出せる流れがほぼ見つからないタフな状態。 しかも悪いことは重なり、 カメラを持って歩行中に自分が右足を負傷して戦力外に。。
そんなトラブル続きのなか、 なんとか慣れない毛バリを上手に操って魚を出してくれた田ちゃんは、 流石 “トラウティスト”。 近いうちに必ず仕切り直して、 田ちゃんが大物をかけて右往左往するを画に収めたい。
釣りと言えば、 以前に写真家の平野太呂君から連絡をもらって、 ある本のためにエッセイを寄稿させてもらった。 それが製本されて少し前にオフィスに届いた。 5号出版して終了するという釣りの同人誌 『off the hook』。 いまや本も自分で製作してネットで直販できてしまう時代。 ここから買えるみたいです。 興味のある方はぜひ。
我らが太田先生からも、 新刊をいただいた。 〈家飲みは 「世間との関係を絶って」 一人で飲む。 「密」 ではない 「個」 の世界。 酒も料理も注文はできない、 いつも同じもの。 しているのは、 世間の観察、 世間との連帯ではなく、 自分との連帯。 普段は忘れている 「自分との絆を確認する」 営為だ〉 (本文より)。 名著 『居酒屋大全』 が出版されたのが44歳のときで、 現在は75歳。 31年経って、『家飲み大全』 を上梓されることになるとは、 ご本人が一番驚いているのではないだろうか。 とっても面白く、 為になる本です。 ウィルスの嬉しい副産物。 秋の夜長にぴったり。
ご多分に漏れず、 夜回りにでかける機会は少なくなっていた。 春のある夜には、 初めてオンラインゲームを体験した。 プレイしたのは、 3人が1チームとなって戦うバトルロイヤル方式のゲーム 「APEX LEGENDS」 で、 見ず知らずの人とチームになって戦った。 ビジュアルも音声も想像以上にリアルで、 衝撃的なクオリティに心拍数はあがりっぱなし。
慣れないコントローラー操作で、 なんとか逃げながらついていくも、 しばらくして万事休す。 見えない敵に撃たれた。 瀕死の状態で身動きが取れない。 弾薬も切れ、 びくびくしながら這って逃げていたら、 遥か先へと行ってしまっていたはずの味方の一人が目の前に現れた。 きょとんとしていたら、 その子は唐突に自分の持ち物の中から、 たくさんの救急箱と弾薬を取り出して足元に投げ捨て、 また全速力で前線へと走り去って行った。
これはつまり、 私を助けようとしてくれているのだと理解した。 すぐさまその救急箱をいただいて回復したが、 結局ほどなくして自分は戦死。 「その子」 は見事なテクニックを駆使して、 そのまま最後の2チームになるまで一人生き残った。 最終局面は1人対3人。 傷だらけのまま、 3人相手に大立ち回りを演じて華々しく散り、 2位をもぎ取った。 感動的だった。 プレイはそのまま自己表現であることを知った。 強くて、 無慈悲で、 誰にも媚びない。 「その子」 は本当にかっこよかった。 その振る舞いに痺れてしまった。 「その子」 はどこか地方の中学生かもしれないし、 社会人の女性かもしれないし、 実は今あなたの隣に座っている人なのかもしれない。 まあ、 自分のようなおじさんでないことは、 ほぼ間違いないだろう。 ゲームが上手いっていうのは、 こんなにもかっこいいことなんだと今更ながら実感して、 自分の時代遅れを恥じた。
APEXは風景、 キャラクター、 武器、 その他こまかな造形のクリエイションも素晴らしい。 パソコンや手持ちのゲーム機を使えば、 誰でもインターネットを通じて参加可能。 利用料はなんと無料で、 プレイヤー数は世界で1億人を突破している。 ここに来たら、 職業も年齢も肌の色も社会的優劣も全く関係ない。 まるで道場のよう。
このゲームに登場するあるキャラクターの決め台詞が好きだ。 「おまえが俺を認識した頃には、 俺はそこを立ち去ってるし、 お前はこの世を去ってる」。 微妙な味わいでじわじわと沁みてくるのは、 流行と訳されることもあるファッションを生業にしているからか。 ものを創る側でいる間は、 かくありたい。 荒木大輔REMIX、 ウェブ版公開です。