「価値観」ってやつをずっとずっと考えてまして。
決して考え続けて悶々としているんじゃなくて、欲しいモノを買ったり、いろんな人と考え方をぶつけあったり、移動している中で目に入ってきたものについてあれこれ仏頂面で考えたり。そんなことを日々繰り返している中でそれは変化していくし、その変化に対しての問いかけをきちんとしていきたい、そう思っている、って話です。
最近、どこかで目にした文章がとても印象に残っていて、それが実際に生活している中で“ああ、こういうことだよなあ”ってお腹に入ってきて、とても気持ちがよかったのです。とても合点がいったのです。
いったい何を言いたいのか分かりづらいですよね。自分でもなかなか言葉に出してみるとこうなっちゃうんですけど、おっきく言えば「生きること」です。その記事に書いてあったのが、人間の欲求の先。アメリカ合衆国の心理学者・アブラハム・マズローの自己実現理論。「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」と過程し、人間の欲求を5段階の階層で理論化したもの。下のレベル的欲求から順に、
1.生理的欲求→2.安全の欲求→3.所属と愛の欲求→4.承認の欲求→5.自己実現の欲求
つまりは、
1.腹減った。寝たい→2.安定した暮らしがしたい→3.仲間や恋人がほしい→4.尊敬されたい→5.自分の可能性を追いかけたい
という感じでしょうか。
僕らは今、とても豊かな時代に生きていると思います。それは幸か不幸か。世に起こること自体にプラスもマイナスもなくって、それを自分がどう捉えるかで幸か不幸かが決まると思ってます。脱線しました。戻ります。そう、時代はとても豊か。それは貨幣の価値がどうなっているのか、というのはちょっと深いところになってしまうので置いておき、「モノ」も「情報」も自分が望めば手に入る時代。欲しいものはお金で買える。
知りたい情報は検索で分かる。
つまりは、僕らは今、マズロー理論で言うならば「2」の段階にほぼ居るといってもいいでしょう。その先、「3」以降の考え方。お金を持っている人には仲間がいたり、恋人がいたりしますし、尊敬もされたりする、というとても偏見な見方が(笑)その特別な例を除いては、「3」以降はお金では買えないものだと捉えます。特に「5」。お金はあるに越したことはありません。でも、お金、という概念から外れた考え方や捉え方を持つべきだなあと思うのです。
先日、大きなプロジェクト(アパレル)を手がけているキーマンへインタビューする機会がありました。今世の中はどうなっているのか。どう捉えているのか、質問の中に織り込んで聞いてみました。確実に洋服への投資額は少なくなって来ている。洋服が面白くなくなったのではなく、その分、いい意味で文化度が成熟している。食事や旅行、家電などへも投資する人たちが増えた、という答えが返ってきました。すべてはライフスタイルの充実。心が満たされていることを補うものとして好きな洋服を買う、食事のおいしさ、現実を離れて旅をする。少し前までもてはやされていた洋服馬鹿、な人たちが、なんとも空しく響きます。
でも、それって今に始まったことじゃないと思います。雑誌メインでお仕事をさせてもらっていた頃、リニューアルに際してある編集長がおっしゃった話。「街で遊んでない編集者がいい雑誌をつくれるわけがない。洋服だけ買ってるだけの偏ったやつらが作る雑誌なんか全然面白くない」この言葉がものすごく腹に入りまして。洋服を作っている人に流れている音楽、遊び、文化。それに呼応するメディアの人間。フィルターを通して文章と写真、スタイリングにデザインで読者に伝える。シーズンの洋服を紹介するだけの雑誌なんかなんの意味もない。洋服の向こう側を、しっかり自分たちのフィルターを通して伝えよう。街を歩いてる奴らがどんどんかっこよくなったらいい。残念ながら雑誌はなくなってしまいましたが、それは自分の仕事に対するマズロー理論の「5」でした。自分の仕事、引いては自分の人生においてのこの考え方、捉え方は今でもずっと変わらずに問いかけていることです。
「豊かさ」とはなにか。本屋さんに行っても、仕事についてのコーナーをよく目にするようになりました。ほんとうの豊かさを、ほんとの意味で世の中が探し始めているんだなあと。
ほんとうの豊かさは、一度きりの人生の豊かさ。五感で感じる豊かさ。
3.11からもうすぐ1年を前に、おもうのでした。
亜童 A.D.O
フリーランスの編集者、ライター、ディレクターとして雑誌やWEB、広告、映像のディレクションをつとめる。雑誌『THE DAY』(三栄書房刊)のクリエイティブディレクターとしても活動中。人生一度きり、の思いを掲げ、自らのお尻を叩きながら前へ前へ。
鹿児島出身、目黒区在住。
http://thedaymag.jp/