心の動く景色は目の前に突如現れる。
かさをかぶった月、雨上がりの夕陽、背の高い木、水色の虫。
思うに、それは私の心の感度に随分と左右されていて
忙しさで毛が逆立っているような時に見逃したことがどのくらいあったのだろう。
生きている間にどのくらいそういう景色を見られるかは自分次第なのに。
ついこの間のこと。
保育園のお迎えに遅れてしまい、
すっかり暗くなった駐車場で車のチャイルドシートに次男を乗せ、
早く帰って子供達に晩御飯を食べさせなければ、
何を作ろう、と考えてみたら冷蔵庫が空っぽだったことを思い出して、
これから2人を連れて買い物に行くのかと重たい気持ちがずしんと落ちてきた時、
長男の声が飛んできた。
ママ、ねえ早く来て!お月様だよ、光ってる!
はっとして彼の隣りへ行くとぼんやりかさをかぶった新月が環七沿いに並ぶ建物の隙間に浮かんでいた。
そういえば月を見たのは久しぶりだなと思った。
それは天気のせいではない。
帰り道、助手席の長男は続けて言った。
ねえ、ママ、お月様ついてくるよ、
どうしてついてくるのかな、
僕のことが好きだからかな、
僕もお月様のこと、だいだいだーい好きだから
お月様も僕のことが好きなのかもしれないよね、
きっとそうだよ!
昔、私が少女だった頃同じようなことを母に言ったかもしれない、と思った。
お月様、ママにもついてきたことあるんだよ。
後部座席から次男があーう、と声をあげた。