数十年ぶりと言われた大雪が降った翌朝早く、
撮影で福岡へ飛ぶはずだった。
案の定搭乗予定だった便は欠航したのだけれど、
キャンセル待ちのため空港へ。
いつまでも呼ばれない整理券の番号をにぎりしめ、
ごった返す人の中を縫うようにいくつものゲートを行ったり来たりして
待つこと6時間。
やっと乗り込んだ機内から見えた空はすっかり暗くなっていた。
私たちにはその日のうちにどうしても会いたい人がいた。
福岡在住のアーティスト5lack。
彼をモデルにしてファッションシュートをするための福岡出張。
撮影が決まってからずっと5lackのCDを聴いて過ごしていた。
勿論福岡へ向かう機内でも。
ラップには全く詳しくないけれど、彼の音はとてもモダンだと思う。
サティとかセロニアスモンクとか、そういう音楽家たちと同じような色気を感じるのだ。
初めて会う彼はどんな人柄なのか、どんな好みなのか、
早く知りたいと心が急いでいた。
彼は私たちよりもずっと若くて、歌詞からも適当を愛する現代の若者らしさが伝わってきたし
午前11時に訪ねる約束は少しずつ先にのばされ結局夜になってしまって、
「めんどくさいなあ」
などと思われているかもしれないという不安も実はかなりあった。
けれどもそんな不安もすぐに消えるほど、
私たちは5lackをとても好きになった。会ってすぐに。
翌日は朝から撮影だというのにお酒を飲みながら色んなことを話した。
普段別の業界で生きている私たちが同じ場所でお酒を飲んで、
表現の方法は違っても共通する感覚の部分を重ね合わせて語らっていることが嬉しかった。
そうして撮影は無事に終り5lackの愛車に乗って帰る道の途中で彼は言った。
「すごく楽しかった。みんなで一緒になってかっこいいものを作ろうっていうのってすごくいい。」
とてもシンプルなことなのだけれど、
人を繋ぐってこういうことなのかもしれない。
東京へ戻ってからも、私たちは5lackを思った。
「また会いたいね」
会いたい。
「でもね、そういうのってこちらが思っているのと同じに向こうも思っているものなんだよ」
とカメラマンの守本さんが言った。
そうだといいな、と思った。
https://www.youtube.com/watch?v=5-B3tjeG74Q
東京23時。