開催前から心待ちにしていたフランシス・ベーコン展。
少しゆっくり過ごすことができる日が続き、やっと訪れることができた。
ベーコンの大フアンである私にとって、
ずらり並ぶベーコンの絵に囲まれた空間は心地よく、
体の中に滞っていた何かがすっと流れ出すような感覚があった。
デフォルメされた肉体の奇妙さに反して曖昧で美しい色彩。
ベーコンのピンク、これは私にとって永遠のあこがれ色である。
期待が大きすぎたせいか、展示作品の数が思いのほか少ないような気にさえなったが、
それでもこの空間で過ごした時間は豊かなものだった。
私自身絵を描く。
正確に言えば描いていた。
しばらくそんな時間もなく(というのは言い訳なのだけれど)
久しぶりに開いた油彩の道具はすっかり油でかたまってしまっていた。
小学校へあがるのと同時に習い始めた絵だったが、
高校生までやめずに続けた唯一の習い事だった。
赤い花を赤だけで描くのではないよ、赤い花の中にどんな色が見えるかい?
夜の月は闇を照らすよ、月の周りの闇は薄い色になってはいないかい?
まだ小学1年生の私には、そんな風に教えてくれる先生がとてもすごい人に思えた。
そういうものの考え方ができるようになったのは
絵を描くことのほかにも少なからず影響していると思う。
高校の美術の先生とはとても気が合って、
(研究室でジャズを聴きながら煙草をふかしてブラックコーヒーを飲んでいるような人だった。)
きっと私が好きだろうと教えてくれたベン・シャーンという画家の絵は
見たとたんに心を掴まれてしまった。
当時は抽象画を描いていて、先生もそれを気に入ってくれたようだった。
よくできましたなどとあまり言わない人だったし、
気に入ってくれたことをどんな言葉で伝えられたかは忘れたけれど、
その絵が扉の脇の壁に飾られていたような記憶はある。
いつだったかなぜだったか、先生からもらった猫バスのおもちゃはずっと手元にあって、
今は息子のお気に入りになっている。
次にまた少し時間ができたら、今度は絵を描いてみよう。
あまり大きいものだときっと途中になったままにしてしまいそうでいけないから、
小さなカンバスに黄色で下塗りをした。
その時のために。