真夜中に洗濯機の回る音は嫌いじゃない。
嫌いじゃないけれど迫り来る睡魔との戦い。
洗濯が完了した合図の電子音が鳴るまでは寝てはならない。
コラムの締め切りが頭をよぎりPCを立ち上げる。
仕事が頭を埋め尽くしていると何も書けない。そんな時もある。
言葉が浮かぶのをただ待つのも悔しいから小鍋を火にかけてみる。
赤ワインとオレンジの汁をコトコト沸かす。
気に入りのコップにうつしシナモンをふる。
今の季節にとてもよく似合うホットワインを毎年実家近くの馴染みのバーで必ず頼んだ。
去年はお腹に息子がいたので飲まなかったなあと思い返す。
二年ぶりの味。
懐かしく、バーのマスターの髭面がふっと浮かぶ。
カウンター席の隣りでホットウイスキーを必ず頼んでいたあの人はどうしているだろう。
ほろ酔いの客たちが夜ごと繰り広げる酒場の話はなかなかどれもイケていたなあと思う。
美味しいお店や面白い本、シガーのやり方も教えてもらった。
あの店は今も変わらずにそこにある。
少し前のことになるけれど「これから出る本」というフリーペーパーの「本の周辺」という連載コーナーにて書かせていただく機会をもらい、やっとそれが書店にならぶらしい知らせがあった。この店のマスターの衝撃的な言葉から始まるようにしたことも思い出した。