劇のパンフレット用に役者のスタイリングをするのは好きな仕事の一つ。
それは劇中用の衣裳ともまた違う。撮影の時には進行の関係でほとんどの場合まだ舞台の稽古が始まっていないことが多いし、撮影現場が出演する役者どうし初めて顔を合わせる場所になることも少なくない。台本もしくは原作を一度読んでから衣裳を選ぶのだけれど、そのまだ役の人物になりきっていない状態というのがとても魅力的なのだ。
役と本人の間ほどにある曖昧さは正解のない質問のよう。
「夫殺しで服役していた薄幸で地味な容姿の女」
役者には黒いニットに真っ赤なスカートを着てもらった。その衣裳を見せた時、どうしてこの服なのかと言われた。赤い色のスカートをはくような派手さが役柄からは考えられないという疑問からだったのではないかと思う。けれども私はこの女に激情だとか狂熱だとかそんな感情を見た。それが赤だったのだ。 物語の中の出来事と、そこからの想像と、演じる者。そしてそれを観る者がどんな芝居なのかを思い巡らせる時、赤がサブリミナル的効果を持てばよいなという期待もあった。
「果物、何か。」
パンフレット制作の際、アートディレクターから一つだけリクエストがあった。
何か果物を皿の上にのせたところを撮影したいとのことだった。
柘榴だ、と思った。
半分に割ったそれには人の妄想をかき立てるのに十分な存在感がある。
赤い果汁とスカート。
勿論二つとも劇中どこにも登場しない。
私が好きなのはそういう面白さ、なのだ。
公演初日に観劇の機会をいただき、渋谷のパルコ劇場へ。
堤幸彦氏の演出は一瞬映画を観ているような錯覚を起こしたが、生々しい舞台ならではの熱は確かにそこにあり新鮮だった。間に15分の休憩を挟むほどの長い芝居、テーマも重たく、テンポよく展開する軽快さはないが、観るのにも体力を使うというのは悪いことではないと思う。
撮影した色々な場面に、最後は劇場という空間で触れることができるのも魅力の一つ。
悼む人
原作=天童荒太
脚本=大森寿美男
演出=堤幸彦
企画・制作=株式会社パルコ、株式会社ネルケプランニング
公式ウエブサイト
http://www.parco-play.com/web/play/itamuhito/