夏休みは例年夏にとれない。今年も例外ではなく、秋頃に落ち着いてくるであろう仕事の様子を見て、涼しくなってからどこかへ行こうと思ってはいるのだけれど。しかしじっとしているのも苦手で思い立つと早い。行きたい!行こう!そんな流れで二泊三日のショートトリップが決まり、韓国へ。
韓国といえば食や美容なんかが観光コースとしてはスタンダードだけれど、私には一番の目当てがあった。ポジャギである。「褓子器」と書くそうだが、日本でいう風呂敷のようなもので、その用途は多岐にわたる。食膳の上に埃よけとしてかける、使わない衣類や布団を包んでおく、敷物として敷く、あるいは間仕切りとして吊るす。その大きさは30cm四方の小さなものから2m四方の大きなものまで幅広い。
実は私が初めてポジャギと出会ったのは外苑前の古道具屋だった。あみだくじのような不思議な図柄。パッチワークと言えば思い浮かぶいわゆるポップさがなく、繊細な印象。いくつもの小さな端切れがパズルのように組み合わされ大きな一枚の布になっている。薄い麻製で軽い。はぎを見ると手縫いの細かな針目。この美しい手仕事にいったいどのくらいの時間がかけられたのだろう。若かった当時の私にとっては高価で眺めるしかできなかったが、その出会いの小さな衝撃はずっと心にあった。
現地のアンティークマーケットには古いものがたくさんあると聞いて行ってみた。綿でできているもの絹でできているもの、わりに新しいもの、すごく古いもの、青いもの、赤いもの、色とりどり図柄も様々。その中から一枚、生成りの大きいものを選んで値段を聞いた。古くて大きいものは良い状態で残っているのが珍しいらしく他のものにくらべると幾分か高めだったが、旅の目的の一つでもあったし、ポジャギに初めて出会ったあの時からだいぶん大人になって果たした再会を記念して買って帰ることにした。
端切れをつなぐというのには余り布の再利用ということの他に、はぎ合せてつなげることが長寿の証とされ、このことから子どもの幸せや厄払いをする布とも言われているらしい。
ショートトリップからあっという間に時間は過ぎて仕事の日々。次はどこへ行こうかしらとその合間にぼんやり思う。そして窓辺のベッドで眠る我が子と風に揺れるポジャギのある風景を見ながらこのコラムを書いている。