A study of Allen Edmonds

Allen Edmonds(以下、AE)は、普通のアメリカ人にとっての良い靴の代名詞。
日本で言ったら、リーガルかな。
だとしたら、バスのウィジャンあたりは、ハルタのランバンモカになるかな。

普通のアメリカ人は、Alden をまず知らないと思う。
最近の異常な流行で、業界人を中心に随分と浸透した感じだけど、それでも一般的に広く知れ渡っているのは、AEの方でしょう。アメリカのメジャー都市を中心に、どんな地方のファッションモールにもいわゆる高級靴として取り扱っている店があるし。

他にも、Flosheim とか Johnston & Murphy とか高級靴メーカーは存在するのだけど、今でもアメリカ製を貫いてるのは、本当に少なくて、小規模の Alden と、メジャー系だと、このAE。たまたま80年代末から付き合いのあったメイン州のモカシン屋さんが、10年くらい前に、このウィスコンシンを拠点にするAEに事業合併されたのがきっかけで興味を持った。名前は知っていたけど、靴は一足も買った事も、履いた事もなかったからね。

それがここ2、3年、何故かよく買うようになった。理由は、なんだろうね。もの凄く良い製品だからってのとは違うんだけど、たまにてると非常に興味深い、そんな動きをしてるように見える。

最初はまあ、ベーシックな典型的なアメリカンスタイルのロングウィング、MacNeilのコードヴァンから。Alden と比べると木型がビジネスっぽい。スーツに合いそうな形。なので、これは軍パンやジーンズに絶対行けると思ったのが始まり。

次は、ローファー。バスを買うよりバス型のAEが良いかなと。
で、やっぱJ&M風のビーフロールもAEから出てるものを手に入れた。この辺でちょっと気になってきたのは、AEってのは何でもあるなあということ。他の言い方をすれば、全く節操がない。

よく見ると、バス型、J&M型を始め、どう考えても Alden の丸コピーのスタイルも次々と出しはじめてる。Patriot というローファーなんかそっくりだ。Bellevue というチャッカ、Delray という名前のUシームも見た事ある形。トリッカーズのカントリーブローグスタイル(Dalton) ? まである。そして、流行のダブルモンク(Mora) 。なんだか、Wolverine ?に似ているやつ (Promontory Point) も。もの凄い事になってる。しばらく観察していたら、どんどん面白い事になってきた。次に買ったのは、何とイタリア製のAE。ビットローファーで、これなんかまるでグッチ、コールハン系。なのにAEってのが可笑しくて手に入れてしまった。

ましてや一部イタリア生産というのも、なんかトリッカーズとかと同じ経路。
苦手な分野は得意な工場で作ってもらって、自分たちのレーベルを付けてしまえという感じ。

ついでに勢いで、やっぱりイタリア製のまるで見た目、マウンテンブーツも買ってしまった。Cortina という名前で、これはどうみたって Dolomite を意識してるでしょう。いや、競合しようとしてるのではなくて、デザインの下敷きというか、サンプリングしている感じというか、まるで今時のヒップホップ音楽のような柔軟さだ。

この時点ですっかりハマっていたようで、最近また見てみたところ、マウンテンブーツどころか、スキーブーツ (Sun Valley) を発見。即買い。極めつけは、Rothsay 。これなんか、昔の ? Vasque か Dunham の70年代型とウリ二つ。大喜びしてこれも購入。

あまりにも不思議だったので、メーカーに問い合わせてみた。
スキーブーツは、どうも先のソチオリンピックの選手用に作られたそうで、AEでもオンラインでしか取り扱っていないモデルだということだった。それにしてもデザインが渋い、というか面白過ぎ。

一番最近手に入れたのは、Bellrive というウィングチップのスリッポン。これなんかも散々他の靴メーカーで見ていた形であるのに、何故かAEの作るモノにぐっと惹かれてしまった。

なんだろ、AEはアメリカ靴の老舗ではあるけど、今現在経営を担っているのは多分全く違う分野から来た人たちだと思う。靴のメーカーなのに、ベルト、バッグ、サングラスなどのアクセサリーから、洋服のラインまで手がけている多角ビジネスのモデルは、コールハンや、ティンバーランドと同じ。

こういう典型的な、ブランド戦略やインターネットビジネスには興味はないのだけれど、マーケティング中心の営業企画に、デザインチームはよくついて行けてるなあと感心する。その中での、突然変異的な靴のシリーズは一体誰がディレクションしてるのか、もの凄い気になる。

特にマウンテンブーツ、スキーブーツや、Vasque コピーの一連は、どう考えても今のAE市場で売れるはずがないのは、素人の僕でも分かる。それを作ってしまうのが凄い。

実際、そのほとんどが現在セールのカテゴリーに置かれていて、おそらく売れなかったんだろうが、個人的にはこの辺が一番面白いと思ったし、買ってしまった。何となく面白がる目線が僕らに近いのではないかな。

本当にそういう人たちが、AEの裏側に存在するのか、あるいは単純に市場を読みすぎて迷走しているだけに過ぎないのか。AEの今後の展開から目が離せない。

まるで、映画か、TVのシリーズのように、ワクワクしている自分はやっぱり病気だよなあと、積み重なるAEの靴箱を見ながら考えている。裏読みしすぎるとろくな事がないからね。でも、AEさん、頑張ってください。

それではまた次回。

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DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

DAIKI SUZUKI 鈴木 大器

NEPENTHES AMERICA INC.代表 「ENGINEERED GARMENTS」 デザイナー。 1962年生まれ。 89年渡米、 ボストン-NY-サンフランシスコを経て、 97年より再びNYにオフィスを構える。 08年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。 日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。