先週のこと。

同じビルに入っているテナントさんが、 我々のフロアーを訪ねてきた。 聞けば、 エントランスで四つ折りの一万円札を拾った (!) とのこと。 ビルの入り口はオートロックになっており、 エントランス内に入るにはカードキーが必要だ。 彼らの社内で声をかけるも該当者がおらず、 一万円札を前に悪魔の囁きが聞こえてきたが、 きっと困っている人が他の階にいるはずと、 わざわざ来訪してくれたのだ。

プレスのミポリン部長は、 真っ先に私が落としたものと疑ったらしい。 長年の付き合いから、 私がおっちょこちょいなのをよく分かってらっしゃる。 食事しているところに、 忘れた財布を届けてもらったこともあるし (複数回)、 オフィスを出たそばから携帯電話や鍵を取りに戻るのは日常茶飯事。 この前なんてビルの入り口でドアが開かないなと思って手元をみたら、 自分で間違ってクレジットカードを挿していた。 だかしかし、 今回の犯人 (?) は、 私ではない。

結局プレスにも該当者はおらず、 そのまま一万円札はひとつ上の階のネペンテスウーマンへ。 誰か心当たりないかと尋ねたところ、 満面の笑顔で勢いよく手を挙げたのは、 新たにネペンテスの一員となった須藤由美 ウィメンズ・ディレクター。 出社してからカードケースにあるはずの一万円が無いことに気が付いて、 落ち込んでいたらしい。 せっかちな私が朝一から打ち合わせを始めたせいで、 言い出せずにいたそうだ。 ナマのお札を落として、 それが見つかった話しは初めて聞いた。 須藤ちゃんはよっぽど日頃の行いが良いんだな。

D note 0216

須藤ちゃんをよく知るようになったのは、 かつてネペンテスとビームスさんとの間で開催されていた 「舘野会」 (三島先生の『楯の会』にあらず) という集い (宴会) を通じてだった。 舘野さんは、 NY赴任時代の駆け出しの私によく声をかけてくれて、 とてもお世話になった方。 気取らず誰にでも自然体で、 服への情熱を秘めつつ、 穏やかにいつもニコニコしている大好きな先輩だった。 清水さん大器さんと旧知の仲だったこともあり、 いつのまにかビームスさんと仕事をするときは、 いつも舘野さんが間に入ってくれていた。

そもそも須藤ちゃんは、 バイヤーとしてネペンテスのブランドをセレクトし、 ビームスさんを通じて世の女性たちにその魅力を広めてくれていた人。 まさか一緒に仕事をするようになるとは夢にも思っていなかったけれど、 してみたらこれが面白い。 ネペンテスがどうありたいかをよく分かってくれているので、 なにせ話が早いのだ。 入社して数日でポップアップイベントをこなし、 たった4〜5ヶ月で熱々の新ブランド 『RHODOLIRION』 を先週立ち上げた。 小さな身体のどこにあんなエネルギーが? きっと彼女のなかに熱が溜まっていたんだろう。 素晴らしい仕事ぶりだった。

D note 0216

そんな縁をつないでくれた 「舘野会」 の開催は、 今では凍結されている。 コロナによる宴会自粛の類ではなく、 大変残念なことなのだけれど、 舘野さんご本人が鬼籍に入られてしまったのだ。 そのことは本当に信じ難くて、 今でもまたふいにLINEが来るような気がして仕方がない。 きっと 『RHODOLIRION』 の誕生を誰よりも喜んでくれただろうと思う。 その夢はもう叶わないけれど、 この縁は大事に育てます。

『RHODOLIRION』 にあなたの清き一票を。
ご愛顧のほど、 宜しくお願いします。

D note 0216

TOKURO AOYAGI 青柳 徳郎

NEPENTHES ディレクター。 1970年生まれ。 東京都出身。