わからなければ何でもすぐにWikipediaで調べたり、つまらなければ早送りで観られるNetflixもなかった時代。ファッションの着こなしは、みんな映画から教わった。シネコンではなく街の映画館で観たロードショーや、レンタルビデオショップで探して探してやっと見つけた昔の名作。テレビの洋画劇場で初めて観た昔の映画の再放送。そうそう、『MEN'S CLUB』のアメリカのイエローページのようなザラ紙のカルチャーページで連載していた、イラストレーターの斎藤融氏の映画とファッションのコラムも毎月いつも欠かさず読んでいた。あの頃に観た映画には、ワーク、ミリタリー、ユニフォーム、スポーツ、トラッド。男の服の着こなしの基本が全部詰まっている。映画が一番のファッションの参考書だった。そう、スクリーンの向こう側から“映画の着方”を学んだのだ。「映画とファッション」という特集テーマにちなんで、久しぶりにあの頃に夢中で観た着こなしを思い出してみよう。もう一度、映画の着方を学んでみようじゃないか。勉強は大嫌いだけど、今も映画とファッションは大好きだから。
スティーブ・マックイーンとMA-1
  • Steve McQueen
    マックイーンの遺作になってしまった『ハンター』でのMA-1の着こなし。
       日本の映画館のチケットは海外に比べるといささか高い。還暦になってなにが嬉しいって、シニア料金で安く観られることだ。シニア料金で初めて観に行った映画は『トップガン マーヴェリック』である。前作の『トップガン』は80年代にリアルタイムで観ている。平日の午前中に銀座のシネコンで観たのだが、面白いことに館内は筆者と同じオジサンとオバサンばっかり。冒頭でケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」のイントロが流れると暗い館内からどよめきが起きて、思わず苦笑してしまった。
  •    前作の『トップガン』が公開されたのは1986年の冬。映画は大ヒットして、フライトジャケットのMA-1が大ブームになった。劇中でトム・クルーズが着ていたのはCWU36PとレザーのG-1なのだが、なぜだかこれがMA-1になってしまって、若者たちがアメ横の「中田商店」や、渋谷の「バッグドロップ」「ナムスビー」などで〈ALPHA INDUSTRIES〉のMA-1をこぞって買い求めた。この時代、清水慶三氏は「レッドウッド」の姉妹店である「ナムスビー」でMA-1を売っていたのではなかろうか。しかもさすが後にNEPENTHESを立ち上げる清水氏。他では扱っていないブラックやクロード・モンタナが着ているブルーのMA-1を揃えていたのを覚えている。
  • Steve McQueen
    マックイーンの遺作になってしまった『ハンター』でのMA-1の着こなし。
       もっとも清水氏や鈴木大器氏や筆者の世代からしたらMA-1といえば、トム・クルーズの『トップガン』ではなくスティーブ・マックイーンの『ハンター』である。スティーブ・マックイーンの遺作になってしまった『ハンター』では、いつもODのMA-1を着て〈LEE〉ライダースの200番を穿き〈ROLEX〉のサブマリーナをしていた。レスキューオレンジの裏地に縦に配したスナップ付きの内ポケットは、銃を仕舞うのにちょうどいいのだ。筆者はマックィーンが履いているスニーカーはずっと〈ONITSUKA TIGER〉だと思っていたのだが、どうも違うらしい。改めて見ると日本の運動靴メーカーの〈PANTHER〉にも見えるのだが、どなたか詳しい人がいたら教えてほしい。
手本となった不良ファッション
  •    他にも清水氏と鈴木氏は、どんな映画からファッションの影響を受けたのだろうか。真っ先に思い浮かんだのが、〈NEEDLES〉が今季のコレクションテーマにしている『ウエスト・サイド物語』だ。マンハッタンのダウンタウンを舞台に不良グループのジェット団とシャーク団の争いを描いたミュージカル映画の名作で、2021年にスティーヴン・スピルバーグ監督でリメイクされたが、こちらが本家本元。清水氏はシャーク団のジョージ・チャキリスの紫色のシャツにブラックジーンズに〈CONVERSE〉のチャックテイラー風の黒いバッシュという、紫と黒のコーディネートに憧れたという。いかにもパープル好きな清水氏らしい。
  •    余談だが、『ポパイ』が隔週刊になったばかりの1977年に発売の第4号で、「History of Waru~いつの時代にも、若者のファッションをリードしてきたのは不良少年たちだったのではないか?」というタイトルで、『ウエスト・サイド物語』や『理由なき反抗』や『ワンダラーズ』に登場する不良ファッションを特集している。クールスを脱退した舘ひろしと俳優の岩城滉一をモデルに起用して、赤いドリズラーにジーンズというスタイルや、古着のアワードジャケットにジーンズというスタイルを紹介していた。そういえば〈NEEDLES〉にも、〈SKOOKUM〉に別注したパープルとブラックの2色使いのアワードジャケットがあった。なるほど。だからNEPENTHESはちょっとヤンキーの匂いがするツイストしたアメカジが得意なのだなぁ。
  •    関西弁のヤンキーではなく正しい意味でのヤンキーファッションのお手本になる映画といえば、『アメリカン・グラフィティ』だ。NEPENTHESのWebサイトで読むことができる自らの半生を振り返ったインタビューによると、公開当時、山梨県の甲府の高校1年生だった清水氏は『アメグラ』を観て50'sファッションに目覚めて、友達と原宿の「クリームソーダ」まで行ったそうだ。わかるなぁ。山梨県のお隣りの静岡県の富士市という同じく地方出身者の筆者も、電車を乗り継いでアメ横まで〈LEVI'S〉501を買いに行ったりしていた。もちろんDJが入るサントラ盤のLPは一家に1枚、必聴であった。
    American Graffiti
    『アメリカン・グラフィティ』のカートのマドラス半袖BDのアイビールック。
  •    青春映画に不良役は欠かせない。『アメリカン・グラフィティ』なら、改造したフォードに乗っているジョンだ。白いTシャツにジーンズにカウボーイブーツ。白Tの袖をくるっと巻いてタバコを入れた格好に当時のヤンキー少年はみんな憧れた。清水氏は、ジョンの敵役でデビューしたばかりのハリソン・フォードが演じていたボブのテンガロンハットにウエスタンシャツという格好にも憧れたらしい。
  •    根っからコンサバな筆者が憧れたのは、優等生であるカートの真面目なアイビールック。半袖のマドラスチェックのBDシャツを裾出しで着て襟元から丸首の白Tを覗かせて、生成りのコッパンにネイビーのキャンバスの〈TOPSIDER〉。数年前に『Begin』の取材でイラストレーターの綿谷寛氏とLAに行った時に、映画の舞台になった「メルズドライブイン」の支店にわざわざこの格好でコスプレして行ったこともあった。ちなみに綿谷画伯が『アメグラ』で好きだったのは、ベスパに乗っていた黒縁眼鏡のテリーのナードな着こなしである。
アメトラのアイコンはハリウッドスター
  • The bride in The Graduate
    花嫁強奪シーンのダスティン・ホフマン。『卒業』はプレップな着こなしの宝庫だ。
       先日、展示会場で鈴木氏とファッションの影響を受けた映画についてお話しした際、「清水や僕の世代はピックアップする映画がみんな被るから、早いもの勝ちなんですよ」と言って挙げていたのが、ダスティン・ホフマン主演の『卒業』だ。ダスティン・ホフマンが演じるベンジャミンのアイビーな着こなしは、今もメンズファッション誌でアメトラやプレッピーの特集があると必ず紹介される。
  •    有名なのが、教会で花嫁のエレンを略奪する時の着こなし。オフホワイトのフィールドパーカに黒いポロシャツとホワイトジーンズに白いジャックパーセル。筆者もパーカは〈GRENFELL〉で、黒いポロは〈FRENCH LACOSTE〉で、〈LEVI'S〉のホワイトピケに白いジャクパを履いて真似したことがある。他にもブルーのシャツに黒いニットタイでシアサッカージャケットや、茶のコーデュロイのジャケットなど、ベンジャミンの着こなしはどれもアメトラの参考になる。
  •    我々の世代は、ダスティン・ホフマンの70年代の映画のファッションが刺さりまくりである。『クレイマー、クレイマー』で、見せたM-65にコーデュロイのフレアパンツを合わせて〈GUCCI〉のビットモカシンという着こなしもいい。ともすればダサい、いかにも70年代のニューヨーカーといったスタイルだが、〈NEEDLES〉のビットモカシン好きなどは、この映画から影響を受けていると察する。
  • Kramer vs. Kramer
    70年代のスノッブな着こなしは『クレイマー、クレイマー』。
       70年代の映画で見るスノッブなニューヨーカーの着こなしといったら、ウディ・アレンも外せない。メンズファッション誌がアメトラやプレッピー特集をやると、彼も必ず着こなしのお手本として挙げられる常連さんである。代表的なのが、1978年公開の『アニ・ホール』だ。コインポケットが付いた2プリーツのチノパンやコーデュロイパンツにヘリンボーンのツイードジャケットを着て〈HERMAN-SANTA ROSA〉か〈GEORGIA GIANT〉を思わせるオックスフォードのワークシューズを履き、チェックのシャツの襟元からカラーTシャツを覗かせたナードなニューヨークトラッドスタイル。共演のダイアン・キートンが〈RALPH LAUREN〉のメンズのジャケットやチノパンをボーイッシュに着こなして流行った「アニーホールスタイル」と同様、アメトラ好きなら暗記するほど覚えている着こなしである。
  •    鈴木氏はまた、『マンハッタン』のウッディ・アレンのミリタリージャケットにチノパンとチェックのシャツを着たスタイルも映画の中の好きなファッションとして挙げていた。筆者がこの映画で覚えているのは、ケーブルニットベストにオックスフォードのBDシャツをノータイで着てコーデュロイパンツを穿いた着こなし。定番の服を着ているのに、ミリタリージャケットやハットのヤレ具合、パンツの裾の絶妙なたるみ具合など、ウディ・アレンが着こなすとナードなニューヨーカーになるんだよなぁ。
  • Annie Hall
    『アニー・ホール』のウディ・アレンのナードなニューヨーカースタイル。
       ちなみに2012年の『BRUTUS』のプレッピースタイル特集号で、清水氏は「あなたにとってプレッピーらしい人は誰ですか」というアンケートに、「アカデミー賞の授賞式にタキシードで〈CONVERSE〉のオールスターを履いて現れたウディ・アレン」と答えている。また鈴木氏も「プレッピーファッションとは何か?」というインタビューを受けているが、「プレッピーな着こなしは日本のバンカラな着こなしにも通じる」と答えて、『アニマル・ハウス』で落ちこぼれのアイビーリーガーを演じていたジョン・べルーシの格好を挙げている。マドラスチェックのパンツをカットオフしてバミューダショーツのように穿いて、「COLLEGE」とそのものズバリな英文字が入ったカレッジセーターを着た、なんともプレッピーな着こなしだ。
  •    カレッジセーターの着こなしのお手本というと、この『アニマル・ハウス』のジョン・ベルーシと、写真集『TAKE IVY』のアイビーリーガーの写真が必ず挙げられる。『TAKE IVY』で撮られたアイビーリーガーはみんなツンツルテン丈のコットンパンツやホワイトジーンズを穿いているが、当時の流行りでも何でもなくて、実はアイビーリーガーは倹約家でパンツを何本も持っていないからコインランドリーでいつも洗濯しているので縮んでツンツルテンなのだそうだ。鈴木氏の言うように、プレッピーファッションとはまさに日本でいうバンカラなのである。
刑事モノ映画とツイードジャケット
  •    70年代のアメリカ映画で見る服の着こなしの舞台を東海岸のニューヨークから西海岸のサンフランシスコに移そう。清水氏と鈴木氏が「ファッションで影響を受けた映画」を語るとき、たびたび名前を挙げるのが『ダーティハリー』だ。シリーズ化されて第5作まで製作されたが、二人がチェックしていたのは1960年代後半〜1970年代の着こなしが見られる『ダーティハリー2』までである。映画の公開当時、清水氏はハリーが好物のホットドッグを食べるシーンに憧れて真似をして服がケチャップまみれになったとか。ちなみに筆者は『ダーティハリー』で初めて44マグナムという銃を知りました。
  • Dirty Harry
    『ダーティハリー』のC・イーストウッドのツイードJKのガーメントな着方。
       なんといっても『ダーティハリー』といえば、主演のクリント・イーストウッドがいつも着ているヘリンボーンのツイードジャケットである。幅広のラペルでエルボーパッチ付きの3つボタンのアメリカントラッドモデルで、インナーにはラムズウールのVネックニット。この格好でバイクも乗っちゃう。ツイードジャケットをファッションではなくガーメントとして無骨に男っぽく着こなしている。
  •    そういえば1960年代後半〜1970年代前半のアメリカの刑事モノ映画の主人公は、申し合わせたようにみんなツイードジャケットを着ている。同じくサンフランシスコを舞台にした『ブリット』のスティーブ・マックイーンも、茶色のツイードジャケットにタートルニットにマッドカードのチャッカブーツにステンカラーコートというスタイルだ。舞台はニューヨークだが『コンドル』のロバート・レッドフォードも、ヘリンボーンのツイードジャケットにシャンブレーシャツ、ニットタイにデニムというスタイル。共通するのは、スポーツコートとしてカジュアルに着こなしていることである。〈ENGINEERED GARMENTS〉や〈REBUILD by NEEDLES〉のツイードジャケットの着こなし方も、当然こっちだ。
  •    今や世界中で大人気の〈NEEDLES〉のトラックパンツだが、清水氏は「レッドウッド」時代に観たアメリカ映画で、〈adidas〉のトラックパンツにTシャツを着てテーラードジャケットを羽織って子供の野球の試合を観に行く父親のシーンがあり、その着こなしが好きだったと、かつてトラックパンツの誕生秘話を明かした『NEPENTHES in print』のインタビューで語っていた。題名は忘れたらしいが、何という映画なのだろう? 筆者が映画で初めて知ったスポーツウェアの着こなしといえば、『ロッキー』でシルヴェスター・スタローンが着ていた霜降りスウェットのセットアップである。それまで運動着といったらドリフや欽ちゃんがコントで着ているような、それこそポリ混のジャージの上下であった。アメリカ製の霜降りスウェットのアスレチックウェアなんてまったく知らなかった。
NEPENTHES的アメリカンニューシネマ
  •    この特集テーマでコラムを書くにあたり、筆者が一番 「NEPENTHES」っぽいなと思った映画が、アル・パチーノ主演の『セルピコ』と『スケアクロウ』である。〈NEEDLES〉では2015年の秋冬コレクションで、『セルピコ』のアル・パチーノを彷彿させる髭ヅラのモデルを起用して映画にインスパイアされたルックも発表している。
  •    アル・パチーノが演じる刑事セルピコが着ている服でよく知られているアイテムが、白いUSネイビーのセーラーハットだ。本来は水兵帽なのでヒサシは上に曲げて被るものだが、アル・パチーノはヒサシを曲げずバケットハットのように目深に被っている。この被り方はこの映画から定着したのではないかと思う。〈ENGINEERED GARMENTS〉の定番アイテムのバケットハットも『セルピコ』にインスパイアされて生まれたのかも知れない。他にも清水氏と鈴木氏は、それぞれのブランドでメキシカンジャケットや、ワッチキャップにM-65、Pコートなど、『セルピコ』でアル・パチーノが着ていたヒッピーテイストのアイテムをよくデザインソースにしている。
  • Serpico
    『セルピコ』のアル・パチーノのヒッピーなM-65の着方はNEPENTHESっぽい。
       『スケアクロウ』のアル・パチーノは、いつもワッチキャップを目深に被り、ネイビーのCPOシャツの下にシャンブレーシャツを着て、茶色のコーデュロイのベルボトムパンツ(おそらく〈LEVI'S〉646)にネイビーのスニーカーというアメカジスタイルだ。筆者などは 〈ENGINEERED GARMENTS〉 のCPOシャツを着る時には、この着こなしを参考にしている。アル・パチーノとバディを組むジーン・ハックマンの着こなしもカッコいい。ツイードのコートにツイードのキャスケットを被り、レタードカーディガンやモヘアのカーディガンに長袖のアロハシャツを着て、さらにその下にはサーマルの長袖シャツ。季節感なんてまるで無視した、そのへんにある服を適当に選んで着込んだような重ね着スタイルが、なんともNEPENTHESっぽいツイストしたアメトラなのだ。
  •    この頃のアメリカ映画は、いわゆる“アメリカン・ニューシネマ”の流れを汲んでいる作品が多い。ロバート・デニーロのタンカージャケットやM-65の着こなしが有名な『タクシードライバー』然り、マウンテンパーカーの着こなしが有名な『ディア・ハンター』然り、ジャック・ニコルソンのワッチキャップにレザーのG1に501にワークブーツスタイルが有名な『カッコーの巣の上で』然り。主人公は大抵ベトナムからの病んだ帰還兵で、長引くベトナム戦争や公民権運動に揺れる当時のアメリカの若者たちを描いている。だからヒッピースタイルやミリタリーウェアが多いのだろう。本来は着こなしがどうのこうの言うストーリーではないのだ。でもカッコいいんだからしょうがない。LOVE&☮なのである。
  •    ちなみにアメリカ映画ではないが、1970年代のお洒落なTVドラマとして知られているショーケンこと萩原健一主演の『傷だらけの天使』は、ショーケンが『スケアクロウ』のようなアメリカ・ニューシネマのロードムービーを作りたくて製作されたんだそうだ。当初バディを組む亨(あきら)の役は水谷豊ではなく火野正平が候補に挙がっていたらしい。火野正平といえば最近はNHK BSの番組で自転車に乗って旅をしているが、あの番組でぜひ〈SOUTH2 WEST8〉の服を着てほしいなぁ。絶対似合うと思うのだが。
  • Scarecrow
    NEPENTHESっぽいミリタリー&ワークな着こなしがカッコいい『スケアクロウ』。
       面白いのが、清水氏も鈴木氏も、70年代に流行った海洋パニック映画の衣装に注目していた点だ。『ジョーズ』のロイ・シャイダーの霜降りの半袖スウェットにジーンズに〈TOPSIDER〉 のデッキシューズや、『オルカ』の漁師が着ている〈INVERALLAN〉のようなアランセーターのカーディガンの着こなしなど、確かに参考になる。筆者はサメとシャチが怖くてファッションなんてまるで見てませんでした。流石であります。
  •    筆者が一番アメカジっぽい着こなしだなぁと思うのは、『がんばれベアーズ』のウォルター・マッソーの格好である。アロハシャツにチノパンでベースボールキャップを被ってテーラードジャケットを羽織った、アメリカの片田舎にいるオジサンのような着こなし。子供たちのフェルト製のベースボールキャップを被ったユニフォームスタイルや普段着もいい。実は1970年代の映画に出で来る子供の格好は一番リアルなアメカジなのである。あの名作『E.T.』でも、エリオットがいつも着ていた赤や霜降りのジップアップのスウェットパーカーなんてたまらん。映画の公開当時はジップアップのスウェットパーカーなんて売っていなくて新鮮だったのだ。
  •    さて映画のファッションについて散々語ってきたが、筆者がこれまで何度も繰り返し観ている作品は、実は『燃えよドラゴン』である。お洒落でもなんでもありゃしない。ついこの間もBSで放映していてまた観てしまった。でも最近知ったのだがブルース・リーが妹の墓参りをするシーンで着ているスーツは、“タケ先生”こと菊池武夫の〈MEN'S BIGI〉なのだそうだ。そうやって観直してみると、ラストの格闘シーンで着ている白いチャイナ服も〈NEEDLES〉のオリエンタルボタンシャツに見えてくるから不思議である。そうなのだ、“映画の着方”にややこしい蘊蓄なんていらない。勉強なんかしなくてもいい。DON'T THINK. FEEL!

いであつし:1961年、静岡県生まれ。コピーライターとして「パルコ」「西武百貨店」「西友」の広告コピーを手掛ける。フリーエディターとして『POPEYE』の編集に参加。コラムニストとして『Begin』『LaLa Begin』『AERA STYLE MAGAZINE』『ひととき』(JR東海・新幹線グリーン車車内誌)、『読売新聞』、『NIKKEI STYLE メンズファッション』など、雑誌、新聞、WEBメディアを中心にでコラムを連載中。