テキスタイルとの出会い

幼少の頃からアートに対して関心を示す子供だったという野口さん。好奇心の赴くままにアート関連の本を読み、美術館に行き、やがて興味の対象はファッションへと広がっていった。

「祖母が生地から選んで自分で洋服をつくる人で、家にたくさんの生地や古い反物がありました。そんな環境で育ったせいか、気づいたら私も生地や洋服が大好きになっていました。小学生になる頃には祖母のお下がりを自分でリメイクしたり、毎日お気に入りの洋服を着て学校に行くことに夢中で、将来は生地やファッションに携わる仕事に就こうと自分の中では決めていました」

テキスタイルに感じるロマン

武蔵野美術短期大学を卒業後、本格的にテキスタイルデザインを学ぶため、ロンドンに留学。Chelsea College of Artsに通いながら、在学中にテキスタイルデザイナーとしての活動を開始する。

「ロンドンでテキスタイルデザインと深く向き合ってみて実感したのが、自分は図柄のパターンを組むのが好きということ。テキスタイルが持つ、ひとつの図柄をどこまでもつなげることができる永続性、同じ図柄が続いていくことに、とてもロマンを感じます」

シルクスクリーンプリントの可能性

卒業後、ニューヨークを経て日本に帰国した野口さんは、2005年にファッションブランド「NŌMA t.d.(ノーマ ティーディー)」を立ち上げる。ハンドドローイングを生かしたテキスタイルで独自の世界観を表現する一方、スクリーンプリントという技法の持つ可能性も探求。昨年にはスクリーンプリントによる作品を一冊にまとめた『BETWEEN LINE AND PATTERN』(published by SO1)を出版し、あわせて初めてのスクリーンプリントショーも開催した。

「スクリーンプリントの面白さは、本来マスプロダクトのための技法でありながら、筆を用いたペインティングのような表現も可能なところです」

<赤と黒>をテーマにEGとコラボレーション

テキスタイルデザイナーとしては、今季ENGINEERED GARMENTSとのコラボレーションが実現。定番のLOITER JACKETなど、NŌMA t.d.のオリジナルテキスタイルを素材として採用した複数のアイテムが展開されている。

「最初に打ち合わせをした時、(鈴木)大器さんが18FWのキーカラーは<赤と黒>で、またフランス人作家のスタンダールが19世紀中期に書いた小説『赤と黒』がインスピレーションのひとつというお話をされました。私もその作品を読んで、そこから浮かんだイメージを元にテキスタイルのデザインをしました。フランス文学から着想を得るのは初めてのことで、新しいドローイングのタッチを取り入れたり発見が多く、とても楽しい経験になりました」

「BETWEEN LINE AND PATTERN」

そして、今回のコラボレーションから派生したエキシビジョン「BETWEEN LINE AND PATTERN」が、9月13日にNEPENTHES NEW YORKでスタート。翌月からは場所を日本に移し、NEPENTHES系列各店で順次開催される。(NY:9/13〜、NEPENTHES TOKYO:10/19〜21、NEPENTHES HAKATA:10/26〜28、NEPENTHES OSAKA:11/9〜11、SOUTH2 WEST8:11月予定)

「EGの18FWコレクションでは5つの図柄を繋げてひとつのデザインとして見せています。今回のNYのエキシビジョンでは、その5つの図柄を解体し、キャンバス作品として再構築し展示します。日本では、タイトルの『Between Line and Pattern』が表す通り、ラインとパターンの関係性をより深く探った展示になります。こちらは紙にプリントした作品で、NYで展示するキャンバス作品とは違った印象になると思います。また、同時開催のポップアップストアでは、これまでにNOMA t.d.のコレクションで使用したテキスタイルのアーカイブから幾つかの図柄を選び、一点物のシルクシャツや今回のイベントのためだけのスペシャルアイテムも販売します」

PAST EXHIBITION at SO1

WORKS at THE KNOT TOKYO

introduction

野口真彩子
武蔵野美術短期大学卒業。Chelsea College of Arts テキスタイルデザインコース卒業。2000年初頭、ロンドン在学中にテキスタイルデザイナーとしてキャリアをスタート。その後、ニューヨークにてテキスタイルデザイナーとして活動し、国内外のファッションブランドにデザインを提供。現在は東京をベースに、デザイナーの佐々木拓真とともにファッションブランド「NŌMA t.d.」(2005年設立)を展開。近年は作家としても活動しており、テキスタイルデザインの哲学を生かしたシルクスクリーンプリントの作品は美術界で評価が高い。

Interview & text : Daisuke Inoue