清水慶三インタビュー / Behind the Scenes

清水慶三インタビュー / Behind the Scenes

映画『ウエスト・サイド物語』の世界を
〈NEEDLES〉独自のフィルターを通して
コレクションとして表現

アメカジ、アメトラ、ワーク、ウエスタン、スポーツ、ヒッピー、オリエンタル……。クラシックなアメリカンスタイルをベースに、多彩な要素やキーワードをミックスして自由なスタイルを提案してきた〈NEEDLES〉。2022年秋冬シーズンは、映画『ウエスト・サイド物語』の衣装をモチーフに、独自のアレンジを加えて1950年代後半のニューヨークのムードを表現する。

  • 過去のコレクションを振り返ると、〈NEEDLES〉は明確なシーズンテーマをあえて謳わないことが多かったように思います。今シーズンはなぜ『ウエスト・サイド物語』をテーマに選ばれたのでしょうか?
  • これといった特別な理由があったわけではないのですが、スティーヴン・スピルバーグ監督によるリメイク版が公開されるというニュースをネットで見たのが、きっかけといえばきっかけでした。そのときはまだ予告編やスチール写真が公開されていなかったので、「もし今、あの作品をリメイクするなら、こういう感じの衣装がいいんじゃないかな」と、自分なりの解釈でイメージを膨らませていったんです。
  • そこから 〈NEEDLES〉 のフィルターを通した『ウエスト・サイド物語』の世界を表現してみよう、と。
  • そうですね。なので、物語の時代設定である1950年代後半だけでなくて、たとえば1970年代が舞台の『サタデー・ナイト・フィーバー』に出てきたファッションの要素なども取り入れています。
  • 思い入れの深い映画について、過去のインタビューでは高校1年生のときに観た『アメリカン・グラフィティ』を挙げていらっしゃいましたが、『ウエスト・サイド物語』も清水さんにとって重要な作品なんでしょうか?
  • 『ウエスト・サイド物語』は人生で初めて観た洋画で、衝撃は『アメリカン・グラフィティ』よりも大きかったかもしれません。それくらいインパクトがありましたね。まだファッションに本格的に目覚める前のことだったのですが、幼い頃からディック・ミネや江利チエミ、越路吹雪といったハイカラな大人に人一倍憧れが強かったこともあって、スクリーンに映る不良たちがとにかくカッコよく見えました。
  • その後、アイビールックや『Made in U.S.A catalog』を知り、アメリカのカルチャーにどっぷりハマっていくことを考えると、ある意味でその原点とも言える体験だったわけですね。
  • そうですね。〈NEEDLES〉の服作りはそのシーズンの気分で、さまざまな要素やキーワードからデザインを発想するのですが、『ウエスト・サイド物語』からは常に何かしらの影響を受けてきたと思います。今シーズンは、それがいつもより強く出たコレクションということです。

映画館は放課後の“遊び場”。
シャークスのリーダー、ベルナルドの
ファッションを真似た高校時代

父親が山梨県甲府市で2館の映画館の支配人を務めていた清水にとって、映画は物心ついた頃から身近な存在だった。映画館は放課後に立ち寄る“遊び場”であり、自宅には父親が毎月購入する映画雑誌がコレクションされていた。当然のように同級生の誰よりも早く、海外の映画に興味を持つようになったという。

  • 清水さんが『ウエスト・サイド物語』を初めて観たのは?
  • 映画を観るより音楽を聴いたのが先でした。なにかのきっかけで親父が持っていたサントラ盤のレコードを見つけて、どんな内容の作品かも知らないまま、好奇心から聴いてみたんです。
  • それはいつ頃の話ですか?
  • 小学4年生くらいだったかな。ちょうどテレビで西部劇の『ローハイド』を観たり、海外の映画やドラマに興味を持ち始めた頃でした。ただ、当時はまだ「ミュージカル」という言葉も知らなかったし、それまで聴いてきた普通のポップスと違って喋るように歌っているしで、これは一体なんだ、と(笑)。それでも「Cool」は気に入って、繰り返し聴いた記憶があります。
  • その後、映画もすぐに観られたんですか?
  • いや。まだレンタルビデオもない時代ですからね。父親が支配人を務める映画館で上映されることになって、ようやく観ることができたのは1年くらい経ってからだったと思います。
  • 感想はいかがでしたか?
  • 最初にニューヨーク上空からの空撮映像がしばらく続いた後、ビルの谷間にある小さな公園でたむろするジェッツのメンバーたちが映し出されて、指を鳴らしながらいきなりダンスを始める。そこまでのオープニングシーンで、かなりグッと来ちゃって(笑)。もう夢中になって観ました。その後も上映期間中に何度も劇場に足を運んで、家でも父親が買っていた映画雑誌『スクリーン』で『ウエスト・サイド物語』を紹介する記事を探しては読み耽っていましたね。
  • 特に好きだった登場人物はいましたか?
  • やっぱりジョージ・チャキリスが演じたシャークスのリーダー、ベルナルドですね。ダンスパーティーのシーンで紫のシャツに黒のスーツを着ている、その姿がもう最高にカッコよくて。さすがに年齢的にそのときはまだ同じようなファッションをするところまではいかなかったけど、高校生になった頃に、ベルナルドの真似をしてギャリソンベルトの四角いバックルを右にズラして巻いたり、リーバイスのスタプレみたいな細身のパンツを穿いたりしていました。

“プリントネル”  “星柄”  “ブルゾン”
今シーズンの気分を象徴するキーワード

一つひとつのアイテムに目を向けてみれば、コーチジャケット、カウボーイシャツ、トラックスーツといった、〈NEEDLES〉を知る人にはおなじみのものが並ぶ。その多くがオリジナルのファブリックで仕立てられており、エスニック調のマルチストライプやレトロな雰囲気漂うダマスカス柄、トリコロールカラーのドットプリントなど多彩な色柄が目を引く。

  • 展開するアイテムのラインナップは、ブランドとしては定番と呼ばれているものが中心ですね。今回のテーマをどのように落とし込んでいったのでしょうか?
  • 作っているアイテムは、基本的にいつもと同じです。好きなものはずっと一緒なので(笑)。テーマを意識したのは、柄と色くらい。作り方が大きく変わったわけではありません。
  • では、今シーズンの気分が強く反映されているアイテムを挙げるとすれば?
  • ひとつはプリントネルを使ったONE-UP SHIRT ですね。あの時代のクラシックな柄を、オリジナルで5種類ほどデザインしました。もうひとつは星の総柄をあしらった2B JACKETとSIDE TAB TROUSERのセットアップ。この柄は個人的にもすごく気に入っていて、インラインとは別に直営店限定で色違いのシャツとモヘアセーターも展開する予定です。
  • たとえば、『ウエスト・サイド物語』に出てくる特定の衣装から着想を得たアイテムはありますか?
  • 決闘の後、復讐に燃える仲間たちに向かってアイスが「Cool」を歌うシーンで、ジェッツのメンバーたちが着ているブルゾンですね。過去にも〈NEEDLES〉で同じようなデザインのものを手がけていますし、今回のコレクションでも作りました。映画に出てくる好きなファッションのナンバー1が『ダーティハリー』の名悪役スコルピオだとしたら、ナンバー2はあのシーンでのジェッツのブルゾンスタイルかもしれない。それくらい大好きなアイテムなんです。
  • 『ウエスト・サイド物語』に限らず、若い頃に観た1960年代から1970年代にかけての映画は、今も清水さんの服作りにおいて重要なインスピレーション源となっているのでしょうか?
  • そうですね。『ダーティハリー』『ジョンとメリー』『クレイマー、クレイマー』『セルピコ』など、ファッションで影響を受けた映画はたくさんありますが、なかでも『ウエスト・サイド物語』は“たまに思い出す”というよりも、カッコよいものとして“ずっと自分の中にある”という感じです。ただ、決してわかりやすいカッコよさではないので、それをアウトプットして人に伝えるのがなかなか難しい(笑)。
  • もしかすると〈NEEDLES〉のイメージカラーが紫で、さらにトラックパンツのファーストモデルが黒に紫のラインだったのも、元を辿っていくと、先ほどお話に出たダンスパーティーでのベルナルドのスタイリングに行き着くのかもしれないですね。
  • そうだと思います。もちろんそれだけが紫を好む理由ではないですが、紫の服に釘付けになったのは、間違いなく、あのシーンが初めてでした。
清水慶三:NEPENTHES代表 /〈NEEDLES〉デザイナー。1958年、山梨県生まれ。1988年にNEPENTHESを創業。世界各国でバイイングしたさまざまなプロダクトを日本へ紹介しながら、1995年には自身のブランド〈NEEDLES〉を立ち上げた。
ウエスト・サイド物語

『ウエスト・サイド物語』

1957年にブロードウェイで初上演され、1961年に映画化されたミュージカルの古典的名作。夢や成功を求めて多くの移民たちが暮らす、1950年代後半のニューヨーク。そのウエスト・サイドでは、貧困や差別に不満を募らせる若者たちが同胞の仲間と結束し、日夜激しい対立を繰り広げていた。ある日、プエルトリコ系移民で構成された「シャークス」のリーダーを兄に持つマリアは、敵対するヨーロッパ系移民の集団「ジェッツ」の元リーダーであるトニーと出会い、一瞬で恋に落ちる。やがてふたりの禁断の愛は、人々の運命を大きく変えることとなるー。ロバート・ワイズとジェローム・ロビンズが共同で監督・制作を務め、1962年のアカデミー賞では作品賞や監督賞など10部門に輝く快挙を成し遂げた。

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