THE EVOLUTION OF THE AMERICAN PRODUCT

〈SEBAGO〉といえば代表作として、 1970年から40年以上変わらぬ製法で製造されているボートシューズ（デッキシューズ）や、創業時から販売しているというハンドソーン（手縫い）のペニー・ローファーが知られていますが、元々ご自身は〈SEBAGO〉に対してどんな印象を持っていましたか？
1970年代末くらいから、よく見ていたアメリカのシューメーカーの一つです。彼らが作ってきた靴のなかで、僕が最初に思い浮かべるのは、ハンドソーン・モカシンとビーフロール・ローファー。アメリカの靴でいうと、〈JOHNSTON & MURPHY〉などがドレス寄りなイメージであったのに対して、〈SEBAGO〉はカジュアルでスポーティ。様々なボートシューズメーカーの生産も請け負っていたりと、ヨットやマリンスポーツのイメージも強かったですね。
このコラボレーションが実現した経緯はどんなものだったのでしょうか？
たまたま〈SEBAGO〉のチームのなかに、スタートした当初から〈ENGINEERED GARMENTS〉に注目してくれていた良き理解者がいたんです。プロジェクトがスタートしたのは、それがきっかけでした。
〈SEBAGO〉はアメリカで創業した老舗メーカーですが、現在はイタリアの企業によって運営されています。そういった事例は今の時代において決して珍しいことではなくて、僕自身ずっと長いあいだアメリカの製品を追いかけてきたなかでも、多くの “Made in USA” が消滅していくのを見てきました。そういった状況を体感しつつ、未来のアメリカン・ブランドの在り方を想像したとき、もしかしたらこのプロジェクトは一つの新しい形になり得るのではないか？と思ったんです。
アメリカで生まれた老舗メーカーが、イタリアの会社によってリバイバルし、そのデザインを日本人である自分が担当する。日本の市場にアメリカの製品を紹介する立場として、見て、着て、触ってきた長い経験があるからこそ、未来のアメリカン · スタイルを作る手助けができるのかもしれない。そしてそれは、グローバルに展開するアメリカン・ブランドの新しいスタンダードになるかもしれない。そんな可能性を感じたことが、このコラボレーションをやってみようと思った大きな理由でした。

古き良き時代のアメリカ製品に宿る “スピリット” に惹かれた自分たちのような世代と、それに共感してくれる若い世代が、アメリカン・スタイルを今の時代につなげていく。そういった努力が今後はますます大事になってくると思っています。自分たちの想いと希望を託しつつ、自分たちが憧れたアメリカン・スタイルを未来へと継承していく作業です。これはむしろ、単純に「アメリカ製か否か」ということでしか、その良さを説明する言葉を持たなかった時代より、むしろ進化していると言えるのではないでしょうか。このような状況はまったく想像していませんでしたが、時代の流れとともに、今となっては自分たちがやりたかったのは本当はこういうことだったんじゃないかなと思っています。
今回のコラボレーションモデルについて、各デザインのポイントやコンセプトを教えてください。
デザインに取り組むにあたっては、既存のモデルの素材変えや色変えのようなシンプルなアレンジだけでなく、なにかもう一歩踏み込んだアプローチをしたいと思っていました。踏み込んだアイデアを載せるベースとして、ローファー、ボートシューズ、チャッカー、ブーツなど、彼らが作ってきた幅広いレンジのモデルを全て見たなかで思ったのは、一番ベーシックなモデルをベースにしたいということでした。自分のなかでベーシックと言えば、やはりブラッチャー（外羽根式）・モカシン。個人的に一番好きなモカシンのスタイルをベースとして、〈SEBAGO〉特有のトラディショナルな感じとは一味違ったアレンジで仕上げてみました。
- ：COVER DECK
  デザインを削ぎ落として、見た目をよりシンプルにスタイリッシュに。スリックな、少し洗練されたカッコ良さを備えたブラッチャー・モカシンというイメージです。カジュアルからドレスまで、幅広いスタイルに対応できると思います。
- ：OVER LAP
  ブラッチャー・モカシンにマウンテンブーツのディティールを取り入れたモデル。 70年代のヨーロッパ的なマウンテンブーツの雰囲気をイメージしています。フックアイレット自体がデザインのアクセントになっていて、モード感もあわせ持った一足です。
- ：ZIPPER DECK
  編み上げのロングブーツに使われるイージージップを取り入れたモデル。このパーツは本来ブーツを楽に着脱するために開発されたものなので、このようなローカットの靴には全く必要ないのですが、機能性は度外視して、パーツ自体が持つ形状のユニークさをデザインとして採用しました。
実は他にもたくさんのサンプルを作ったなかから厳選したものなので、この3モデルはどのデザインも全てとても気に入っています。素材はワックス・スウェードと爬虫類の型押しレザーを選びました。特にワックス・スエードが、昔のアメリカのワークブーツやマウンテンブーツのイメージを彷彿とさせてくれて、個人的に好きな素材です。フルライニングで、ウォータープルーフ製法なので、素足でガンガン履けると思います。是非楽しんでください。