鈴木大器が語る新生「NEPENTHES NEW YORK」

鈴木大器が語る
新生「NEPENTHES NEW YORK」

  • 今回、NEPENTHES NEW YORKをリニューアルすることになった経緯を教えてください。
  • そもそものきっかけは、去年の11月に店舗物件が契約満了を迎えたことですね。ただ、実はそのタイミングで、今の場所から3年くらい前にオフィスを移したロングアイランドシティに店も移転するつもりだったんです。なので、去年の夏頃からオフィスの近くで物件探しを始めていたんですが、その矢先に急に隣の物件が空いたもんだから土壇場で気が変わっちゃって(笑)。結局、移転ではなくそのまま契約を更新して、さらに隣も借りて店を拡大することにしました。
  • 以前の店と比べて、どのくらい広くなったのでしょうか?
  • 中二階も含めて、隣はウチとまったく同じ広さと作りだったので、間にあった壁を完全に取り払ってひとつの空間にしました。なので、面積的にはちょうど2倍になった感じですね。
  • 内装のデザインに関しては、大器さんの中に何かしらのコンセプトや具体的なイメージはあったのでしょうか?
  • 基本的には以前の店と同じで、極力シンプルなものにしたいと思っていました。単純にそういう内装が好きっていうのもあるし、シーズンごとに洋服の色やデザインが変わるので、外枠の箱はできるだけ無個性なものにしたかったんです。要するに、アートギャラリーのようなイメージですね。
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  • 店の主役は、あくまでもその中に置かれた洋服である、と。
  • そうですね。なので、什器などもデザインに凝らず、シンプルなものを選んでいます。唯一、洋服の見え方に影響するライティングだけはかなりこだわりました。使用しているのは工場用のLEDライトなのですが、特に気を使ったのが光の色ですね。それもアートギャラリーで使われている照明のセッティングを参考にして、暖かいオレンジ色から青白っぽい色までレンジがある中で、やや白が強めの光にすべてのライティングを統一しています。
  • 売り場が広くなったことで、店頭で取り扱う商品数もかなり増えたのでしょうか?
  • ハンガーラックの数は、1.5倍くらいかな。その意味では、店頭で扱う洋服の量は増えていますが、リニューアル前と比べて全体的に広々としたレイアウトになっていると思います。そこも以前からずっと改善したかったところで。10年前に店を始めた頃はまだ〈ENGINEERED GARMENTS〉も〈NEEDLES〉もアイテムの数がそれほど多くなかったけど、年々増えてきて、さらに2017年には〈AiE〉もデビューしたりで、ここ数年は商品が全然入りきらない状態だったんです。今回、それを解消できたことで、NEPENTHESのすべてのブランドをしっかりと見せられる空間になったと思います。
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  • 展開するアイテムの中には、NEPENTHES NEW YORK独自のセレクトものなどもありますか?
  • 洋服に関して言えば、基本、NEPENTHESブランド以外のアイテムは扱っていません。セレクトものは、それ以外の雑貨や小物類、たとえばバッグやベルトなんかが中心です。なかでも特に力を入れているのが、靴ですね。今の時点で中二階のスペースはほぼ靴で埋め尽くされている感じで、すでにそこらへんの靴屋よりも商品数が多いと思うんですが(笑)。ただ、数の話だけじゃなくて、うちみたいな切り口でセレクトしている店はNYではかなり珍しいので、そこは今後も強く打ち出していきたいです。
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  • さっそく11月に〈SUICOKE〉の別注アイテムや〈ENGINEERED GARMENTS〉x〈ALDEN〉のエクスクルーシブモデルをリリースされましたね。また、NEPENTHES NEW YORKでは2010年のオープン以来、アメリカや日本のアーティストによるエキシビションやポップアップを不定期で開催されてきましたが、その取り組みは今後も続けていかれるのでしょうか?
  • 店内でのアートイベントについても継続してやっていこうと考えていて、ちょうど今、Nigel HoSangというフォトグラファーの写真展を開催中です。以前はスペースの関係で壁面に展示した作品を近くから見上げるような感じでしたが、店が広くなったことで、遠くから引いて全体を鑑賞できるようにもなったので、個人的にもとても楽しみにしています。
  • ここ数年、アパレル業界ではECへの移行の動きが加速しています。そんななかで今回、単なる内装のリニューアルではなく、実店舗を2倍のスペースに拡張することに特に迷いはなかったのでしょうか?
  • 去年の今頃は世の中がこんなことになるなんて、まったく予測してなかったですから(苦笑)。ただ、もともと隣が空いたらそっちも借りるプランは以前から考えていたことでもあったし、この10年間でNYにしっかりと根付いてうまく機能している実感もあったので、店を大きくしても勝算はあるな、と。それに、どうせ店をやるなら、こぢんまりした感じじゃなく、自分たちが作った服をガッツリと見せられる空間にしたいので。なんだったら、気持ち的にはさらにもう一軒隣の自転車屋さんの場所も借りて、そこもくっつけたいくらい。まあ、今コロナ禍の影響で逆にすごく繁盛しているみたいで、当分、出て行くことはなさそうだけど(笑)。
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Photography by Akira Yamada
Translation by Aya Takatsu