友人の松下沙花ちゃんは、自分の絵の端に必ずサニーサイドアップを小さく描くと話してくれた。
「これはプラスマイナスゼロにしてくれるの。私の絵は暗いから」
少し前、高円寺で行われた沙花ちゃんの個展『不在』。
彼女は「モノプリント」という手法を用いる。版に直接インクや油絵の具などを用いて描画して、その上に紙を乗せて圧力をかける。そうすることでイメージを紙に転写する版画の技法だ。
SAKA MATSUSHITA:
http://www.sakamatsushita.com/
沙花ちゃんが描くのは部屋のある部分。
それは隅っこだったりベッドサイドだったり、リビングだったり。
そこに人は描かれていない。人の暮らしがある部屋、かつて暮らしがあった部屋、人の痕跡が残る部屋には記憶がある。沙花ちゃんが描いたのは記憶を持った部屋だった。
主人のいない部屋は少し寂しそうで、それぞれがとどめられた記憶をしたためた色をもっていた。
カウンターに立てかけられた小さな目玉焼きの絵。
「サニーサイドアップはね、だからお守りみたいなものなの」
僕はサニーサイドアップの絵を選んで、持ち帰ることにした。
サニーサイドアップ。
片面だけ焼いた目玉焼き。
おひさま焼き。
孤独も、悲しいも、寂しいも切ないも、悔しいも
それらはみんなサニーサイドアップの反対側にあって。
だからサニーサイドアップは可愛くてホッとするし、いつもやさしいんだよな。
暗闇を探して歩きなさい。
ふらりと入った新宿のバーのママに言われた言葉を思い出す。
周囲に流されることなく、己を見つめて考える。
寂しくなったり打ちひしがれたり孤独を感じることもあるだろう。
いろんなことを言われて凹んじゃうこともあるだろう。
サニーサイドアップの反対側をじっくり焼こう。
サニーサイドアップみたいなおじさんになろう。
今年もこのコラムを読んでくれたみなさま、ありがとうございます。
2018年も、たくさん笑ってうれしいがいっぱいの1年になりますように。