カツさん

25年寝かすって、半端じゃない。本HPで恐縮にもイントロダクションを書かせてもらった内藤カツさんの写真集『ONCE IN HARLEM』の販売が各店でスタートした。イントロダクションでは客観性が必要だったから第三者的な書き方にしたけれど、カツさんはNY時代からの先輩。出会った頃のカツさんは、自身が写真家であることについても人に多くは語らず、写真活動は少し小休止していたのだと思う。そこから年月が経って、処女作『WEST SIDE RENDEZVOUS』の作品を見せられてひっくり返った。あの時代にNYの売春夫を被写体にする日本生まれの人がいたことすら驚きなのに、それがいつも気さくに徳ちゃんと声をかけてくれるカツさんであることが痛快だった。

そして、今度は四半世紀前のハーレムの写真。果たして、この熟成年数は狙いなのか、偶然なのか、必然なのか。発表するのが25年も先の写真を自分が今撮れるのか?と聞かれたら、はっきりとは答えられない。18歳で独り移住して初めて体験したアメリカ、その衝撃は計り知れない。カツさんはきっと、その衝撃に対して自分のなかで落とし前をつけるのに、これだけの歳月が必要だったということなのではないだろうか。確かなのは、その写真の価値が年月を経ても全く色褪せなかったということ。色褪せるどころか、まるでシングルモルトのように年月がその価値をさらに高める結果になった。その証拠に、9月のNYアートブックフェアでは早々に早刷り分がソルドアウトとなり、DASHWOOD BOOKSやPRINTED MATTERなどNYの重要な書店での展開がスタート。自分が語るまでもなく、すでに海外では多くのメディアから注目を集めている。 

NEW YORKER – A Young Japanese Photographer’s View of Harlem in the Nineties 

VICE – This Japanese-American Photographer Captured the Elegance of 90s

MASHABLE – A Japanese immigrant’s beautiful portraits of 1990s Harlem

カツさんは今現在、『SUPER NEW YORKER』というシリーズに取り掛かっている。まだまだ撮りたい被写体がたくさんあって、目が見えなくなるまで撮るというカツさん。これからの作品も心から楽しみにしたい。 

『ONCE IN HARLEM』皆さんも是非、手に取ってみてください。本当に素敵な本です。

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NEPENTHES ディレクター。 1970年生まれ。 東京都出身。