NEPENTHES x〈OTAKARA NYC〉INTERVIEW:SATOSHI SUZUK
NEPENTHES x〈OTAKARA NYC〉INTERVIEW:SATOSHI SUZUK
NEPENTHES x〈OTAKARA NYC〉INTERVIEW:SATOSHI SUZUK

INTERVIEW:SATOSHI SUZUKI

お宝=One of the kind。
手刺繍アーティスト〈OTAKARA NYC〉が表現する、
プリミティブなクラフトマンシップ。
ニューヨーク在住のSatoshi Suzukiによる〈OTAKARA NYC〉。
アメリカと日本のカルチャーをモチーフにしたポップでオルタナティブな手刺繍プロジェクトだ。
味わい深い手刺繍によるリメイクウェアはNEPENTHES NYのポップアップでも話題に。
今回、日本国内のNEPENTHESでもポップアップを開催し、コラボレーションアイテムを
発売することになった。不揃いのステッチワークとその味わい深さは手仕事ならではの魅力。
〈OTAKARA NYC〉のクリエーションについてSatoshi Suzukiが語る。

  • 自分で欲しいものをつくることから
    始まった手刺繍のキャリア
  • まずはSatoshiさんと刺繍との出会いから聞かせてください。
  • 実は刺繍を始めたのは独学なんですよ。ニューヨークにあるアメリカのインテリアを取り扱う会社で、日本向けのセールスとして活動しているんですけど、コロナ禍の2020年ぐらいに失業に近い感じになって、暇な時間ができたんですね。その時期に、自分が若い頃に刺繍の入った古着のシャンブレーシャツをよく着ていたことを思い出したんです。僕は昔、〈DEPT〉という会社で古着のバイイングを担当していて。アメリカ国内で古着を仕入れていくなかで、そういったシャツを好んで着ていました。ふと、また着たいなと思ってオークションサイトを検索しても、なかなか良いものが見つからなくて。そしたら、妻が「自分でつくったらいいじゃない」と言ってくれたんですね。僕はモノをつくることが好き。手持ちのシャツに好きな刺繍を入れることで、自分の好きな一枚が出来上がる。妻の一言がきっかけで、町の手芸屋さんで刺繍のスターターキットを買って、少しずつつくり始めたんですよ。
  • この5年以内に始まったブランドだとは驚きです。作品はどうやって発表していったんですか?
  • 刺繍のモチーフがひとつ完成したら、Instagramのストーリーにアップしてきました。自分と交流のある(鈴木)大器さんがその投稿を見て、作品を持って事務所に遊びに来るようにと声をかけてくれたんですね。実際に作品とモチーフを描いたスクラップブックを見せたら、すごくいいからNEPENTHES NYでポップアップをやろうと提案されて。〈ENGINEERED GARMENTS〉のデッドストックが入った段ボールが後日送られてきて、一つひとつに刺繍を縫うためのモチーフをつくっていきました。そのときはまだブランドの名前もなくて、ポップアップのために名前を決めたんですよ。
NEPENTHES x〈OTAKARA NYC〉INTERVIEW:SATOSHI SUZUK
  • 〈OTAKARA NYC〉にはどんな意味を込めたんですか?
  • 僕のインスタのアカウント名にotakaraが入っていたんです。これも妻が「お宝っていう名前を使えばいいじゃない」と言ってくれたことが後押しになっていて(笑)。大器さんも「treasureの意味もあるし、すごくいいね」と言ってくれて、自分のお宝を大切にしてほしいというメッセージを持ったブランドになりました。
  • NEPENTHESとヒッピーカルチャーを
    モチーフにしたカプセルコレクション
  • 日本のNEPENTHESでのポップアップは今回が初ということで、NEPENTHES NYとの違いについて聞かせてください。
  • ポップアップ用にシャツ4種類とカバーオール3種類、バンダナ5色をつくっていただいて。シャツとカバーオールは1枚ずつ異なる刺繍をデザインして、バンダナは1色ごとにデザインパターンを変えてプリントしました。今回は枚数が多いということで、はじめて工場で刺繍を手縫いしていただいたんですよ。今日はじめて製品を見たんですけど、すごくいい仕上がりですね。洗ったら生地も刺繍も目が詰まるから、もっと表情が出てくるでしょうね。
  • カラフルな刺繍を豊富なバリエーションでデザインした、NEPENTHESならではのモチーフに仕上がっていますね。
  • 僕のテイストとしてはヘタウマ。NEPENTHESの各ブランドとショップ、ヒッピーカルチャーのアイコンを刺繍のモチーフに選びました。モチーフは必ず手描きでスケッチして筆ペンで仕上げるんですね。描いたものはこうやってファイルにまとめていくんですよ。今回のデザインはNEPENTHES用に描いたもので、この中からモチーフを絞って提出したんですけど、ありがたいことにすべての案を採用していただけることになって。嬉しさもプレッシャーもありましたけど、実際に現物を見て大丈夫だなと安心しました。それと今回はNEPENTHES NYの2回目のポップアップから始めたスウェットシャツのシリーズに加えて、ジャケットとキャップもつくってきたんです。合計すると40点くらいかな。アメリカと日本のカルチャーをパロっていますけど(笑)、ベストセラーの「WE ARE HAPPY TO SERVE YOU」やパックマンも用意してきました。
NEPENTHES x〈OTAKARA NYC〉INTERVIEW:SATOSHI SUZUK
  • 手仕事ならではの風合いや、同じものが二つとして存在しないことなどが挙げられますが、Satoshiさんにとって、手刺繍の醍醐味とはなんでしょうか。
  • 時間がかかるから「大変じゃないの?」と聞かれるんですけど、あまり苦にはならないし、なぜか飽きずに続けられる。それがモチベーションに繋がっていて、プロジェクトを始めて良かったなと思うことのひとつですね。新しい絵柄は時間がかかるけど、慣れた絵柄になると制作もはかどります。
NEPENTHES x〈OTAKARA NYC〉INTERVIEW:SATOSHI SUZUK
  • 生みの苦しみもなく、いろいろなモチーフを形にしていることがすごいと思います。中には難易度が高いモチーフもあるんですか。
  • 難易度の高いものはそれなりな日数をかけて制作している感じですが、不思議なもので、絵を描いて刺繍を始めると、なんとなく最終的にできてしまうんですね。できないから諦めたものはないし、やり直すこともない。いまのところはハードルが高くて越せないというモチーフはひとつもなくて。

  • 遠くの目標を見て
    スタートして
    いないからこそ、太く長く。
  • Satoshiさんはどんな経緯からNEPENTHESと関わるようになったんですか?
  • 清水(慶三)さんと大器さんとはNEPENTHESを始める前に出会っていて。お二人は〈DEPT〉のお客さんの一人だったんですよ。海外のいろんな展示会に行くとかならず会う人たちが何人かいて、その顔見知りのグループでもありました。僕は1988年からニューヨークに住んでいるんですけど、その1年後ぐらいに大器さんが引っ越してきたんですね。長い付き合いの友達だから、お互いのいいところを共有して何かを形にできると思うけど、僕らがもっと若かったら、逆にうまくいかなかったかもしれない。自分の好きなクリエーションを共有できたかどうか。そこに野心も入って、素直になれなかったんじゃないかな。
NEPENTHES x〈OTAKARA NYC〉INTERVIEW:SATOSHI SUZUK

  • NEPENTHESとクリエーションで関わってみて、どんな部分にブランドのユニークさを感じますか。
  • NEPENTHESは「One of the kind」。どこにも属していない類い稀なブランドなんですよ。彼らの発信はいつもソリッドだし、誰も真似できない。〈ENGINEERED GARMENTS〉はMADE IN NEWYORKにこだわって、〈SOUTH2 WEST8〉はテンカラに特化したものづくりをファッションのアプローチから形にしている。〈NEEDLES〉は時代と清水さんのムードで独自のものをつくり上げている。トラックスーツがここまで流行るなんて誰も予想できなかったと思うんです。しかも、世界のメゾンブランドも真似するようになるなんて。僕にとってはNEPENTHES NYでポップアップができたことで、いろいろな人たちから注目されるようになりました。オンリーワンという意味でリスペクトしています。
  • オンリーワンは〈OTAKARA NYC〉にも通ずるものがありますね。手刺繍や一点モノの素晴らしさはもちろん、お話を伺っていると、何歳になっても新しいことを始められるというチャレンジを実践しているブランドでもあると思いました。
  • 自分のために始めたことだから、うまくできなかったらいいやと思っていたんですよ。遠くの目標を見てスタートしたプロジェクトではないからこそ、苦にならないのかな。NEPENTHESも友人たちも僕の活動をずっと見てくれていて、何か一緒にやらないかと誘ってくれた。自分の身の丈に合ったプロジェクトとして、太く長く続けていきたいですね。
NEPENTHES x〈OTAKARA NYC〉INTERVIEW:SATOSHI SUZUK
Words:Satoshi Suzuki
Interview & Text:Shota Kato
Photography:Akira Yamada