
工場を訪れるため、年内最後の出張に出ている。上野から新幹線に乗り景色が流れて行くのを眺めていると、進む車体にただ身を任せているだけなのに、頭の中にも風が通り、何か真理に近づいていっているような気さえする。これが、私が移動を好む理由だろう。ものが生まれる場所に行くのは、いつでもワクワクする。その場に立ち、人の動き回る気や、機械が発する心地良い騒音に包まれると、興奮と共にとても謙虚な気持ちになる。製作の過程を見るのは、完成したのもを見るのとはまた違った魅力的な光景で、そこで可能性の広がりを発見したりもする。

製作の過程といえば、先日のニューヨークでチェルシ ーのギャラリー街を回っていたとき、綺麗なカーブを描く巨大な鉄板が、路上に駐車したトラックにくくられているのを見た。トラックは3台並んで停まっており、辺りには誰もおらず、巨大な鉄板だけが異常なパワーを放っていた。まさかと思ってグルグル色々な角度から見たが、やっぱりそう。それは何と、リチャード・セラのあの巨大な立体作品だった。上から覆われるような高い壁が、渦を描くように中心に向かってカーブを描くあの鉄の板が、パーツごとに移送用トラックに乗っていた。チェルシーのガゴシアンギャラリーで来年2月からリチャード・セラのエキシビションが始まるのだが、そのために作品の搬入がされていたのだった。作品は巨大過ぎるため、パーツに分け移動搬入を可能にしたのだろうが、その1パーツでさえとてつもなく大きい。

ここからパーツごとに搬入し、ギャラリー内で組み合わせ、
塗装して仕上げるのだろう。時々、美術館やギャラリーで、この作品はどのようにしてこのスペースに入れたのだろうと想像するが、 実際の搬入また過程の段階の作品を目の前にし、
感動した。ふと気付くと、初老の男性が後ろに立って私と同じ様にそれらを眺めており「これ、リチャード・セラだね」とお互い高揚した目をして確かめ合った。
その夜、友人達と食事をしながら、その話を興奮気味に話した。食事後、タクシーに乗り帰っている途中、向こうからまたもや、リチャード・セラの作品の一部がトラックに乗せられやってきた。
夜中のブルックリンの辺鄙なエリアの2車線の路上に浮かぶ巨大な鉄板が走り去るのを、度重なる偶然に唖然としながら見送った。

もうあと少しで2011年も終わる。3月11日の震災から9ヶ月が経った。あれから私も含め全ての人が、「生きるということ」また「どのような生き方をするか」を改めて考えさせられたと思う。
進んでいく日々に感謝しつつ、今はまだ過程で、そこには沢山の可能性が息吹いていると信じている。
皆様どうぞ良いお年をお迎えください。来年また皆様にお会い出来るのを、心より楽しみにしております。
野口 真彩子 MASAKO NOGUCHI
1998年、武蔵野美術大学短期大学部卒業。99年渡英。CHELSEA COLLEGE OF ART & DESIGNで学んだ後、
ロンドンとNYにてテキスタイルデザイナーとして活動を開始。様々なブランドのテキスタイルデザインを手がける。
帰国後、2005年より佐々木拓真とNŌMA t.d.をスタート。