今年の漢字は「絆」に決まった。今、自分の手元には「きずな」という写真集がある。友人の写真家、下薗詠子ちゃんの作品集だ。１３年間撮りためた人々の肖像がおさめられている。この作品で彼女は、第３６回木村伊兵衛賞を受賞した。彼女のインタビュー時の言葉を借りるならば、「きずな」とは人と人を繋ぐつながり、結びつくという意味。そして写真を撮る、という行為自体が、被写体との繋がりを生むことと同時に、気と気を繋ぐ、傷（きず）を繋ぐことでもあったという。おさめられている全９５人それぞれの肖像からは、見たことも感じたこともない気配が漂っている。むきだしの、とてもヒリヒリした人としての雰囲気とでもいうのか。見るこちらが身構えなければならないような、大きな秘密を覗く、恐いもの見たさ、秘め事を覗き見るような感覚。多かれ少なかれ、いろんなものを背負った人の内側がはっきりと写真に焼き付けられている。ので、とてもとてもこの写真集を開くたびに、疲れる。下薗詠子ちゃんは、とんでもないポートレートを撮る作家なのだ。

２０１１年はまさにそんな年だったように思う。
３月１１日。仕事場である地下の床が、ぐにゃりと波打つ体感。地上では建物が大きく軋む轟音。映像で目の当たりにした信じられない光景。よく理解できていないまま、２時間ほどかけて歩いて帰った。寂しくて不安でしょうがなかった。電話もメールも不通。大事な人たちの安否も分からない。あの時ほどTwitterのすごさを実感したことはなかったな。みんなの安否を確認しながら、随時更新されていく東北の惨状。そんなパニックの中でも、遠くはなれた土地の友人たちがあったかい言葉をつぶやいてくれたり、思いを、気持ちをつぶやいてくれていた。錯綜する情報、リツイートの数々、心配する気持ち、優しい気持ちをつづった文字たちを追いながら、なんだか涙で前が見えなくなって、思わず道ばたにしゃがんでしまったりした。

それから数日間は自宅待機。どうやって過ごしたのか、ちょっと記憶が曖昧なのだ。頭の中に少し靄がかかってるような、これ以上ショックを受けないように、ある部分はフリーズさせているような。そんな初期段階があったな。絶えず情報をたぐり寄せながら過ごす日々。基本的にものごとを前向きにとらえる性格をもっているので、精神的にまいったりすることはなかったけど、でも大きく何かが腑抜けてしまっている感覚はあった。

自分は歌をうたっているのだけど、もちろん音楽なんて聴く気にもならなければ、歌う気になるはずもない。音楽なんてこんな大変な時には、とても無力だ。自分は何のために歌をうたっていたんだろうか。 何日も何日も家に閉じこもって無気力な日々を過ごした。

大切な友達から電話が鳴った。
「今河原で、あどうちゃんの歌をうたってみた。すごく元気が出たんよ。すばらしい曲をありがとうね。それじゃ」 ほんの数秒。自分の言いたいことだけ言って、その友人は電話を切ったんだけど（笑）。ギターを手に取って、歌をうたってみた。自分の曲を。

～無力に嘆く者に送る物語を　始めよう傷ついても　未来を愛せよ～
未来を愛せよ、なんてよく書けたもんだ昔の自分。生活は続く。人生は続く。まさか自分の曲に励まされるとは。できることをやる。 そう決めて、情報を集めて募金をした。チャリティでイベントを開いて、募金をした。ライブハウスへも還元した。気力は戻った。

世界中を巻き込んだ最悪の問題。東電と政府。原発問題。信じられない隠蔽。情報操作。あれからテレビを全く見なくなった。 最悪の事態は今も続いていて、後出しで次々としゃれにならない事象があがってくる。スーパーでは野菜も肉も、米も、産地をよく見ないと買えない。 食材を購入するのを諦める時もある。飛散する放射性物質。ガレキ受け入れ。子供たちの未来。住む場所。 日々を、人生をどう生きるか。という話と今置かれている状況の中で、どうやって過ごしていくかはとても考えづらい。でも、大切な人、身近な人から学ばせてもらうことも多い。

～サボるなよ 一度きりの人生だろ 君は君を生きる 代わりはいないだろ～ ～サボるなよ 一度きりの人生だろ 心のざわめきを 見逃さないように～

最近書けた曲。自分に言い聞かせるように歌おう。 どんなに世の中腐っていても、愛してやれよ自分を。自分を見守ってくれる愛しい人たちを愛そう。 産み落とされた世界で、懸命に生きよう。

２０１２年はもうすぐ。
みなさんもどうか体には気をつけて。
たくさん笑って。